「ここにいたのか。」
あぁ、見つかっちゃった。あなたには、私が何処にいてもすぐ見つけられるように、何か特別な才能か何かが備わっているのかな。…そんな訳ないか。この問答を彼方へと葬り去れば、また例のもやもやが私を苛む。がさがさと生垣をかき分けて、私のパーソナルスペースへとするりと入り込んできたあなたは、少しだけ汗の匂いがした。
「捜したぞ、ナマエ。」
「ごめん…、シリウス。」
「何時になっても待ち合せの場所に来ねえから、」
心配かけさせんな、とその大きな手が伸びてきて、私の髪をかき混ぜる。ぐらぐら、ぐりぐり、私の頭を撫で回すのに、ちっとも不快に思わないのはあなただからでしょうか。しばらくはそう思っていたものの、例の感情が再び私に重たく伸しかかってきて…この密接距離に、それでも今はただただ居心地の悪さを覚えて、私は彼の顔が見れないでいた。
「手間かけさせたね。」
「ナマエだから、別にどうってことない。」
一頻り私を撫でた手は静かに下ろされて、彼の声が辺りに響く。その残響でさえも、今の私を苛むには十分で、カッターシャツの胸元を皺がついてしまう程きつく握りしめた。そんな私の手を目敏い彼は捕まえて、ゆるゆると力を解かせてしまう。
「アイツらになんか、勝手に言わせておけば良い。」
「別に私、何も言われてなんか、――!」
ない、と言おうと口を動かす前に彼に抱きしめられていた。あぁ、彼には私の思っていることなんて、すべてお見通しなんだね。生温い風が吹いて、ざわざわと木立の葉を揺らす。濃くなった汗の匂いに、私はどうしようもなくなって泣いた。彼はローブやカッターシャツが私の涙で濡れてしまうのを咎めようとはせず、むしろ私を抱く腕の優しい拘束を強めた。
「オレのこと、信じられないか?」
「信じるも何も私は…、」
彼の気持ちも、私の気持ちにも、何も偽りはない。しかし、その思いを享受する段階に、彼と私に差があるのだ。彼は自分の気持ちに素直になって受け入れることができる。それに対して私は、周りの目や言葉を気にしてずぐずぐと思い悩み、自分の気持ちをないがしろにする傾向にある。剰え、当初から自分は彼に釣り合うのか?と問答を繰り返しているのだ。彼のように、あっさりと気持ちを受け入れきることなんてできようか。
「お前は難しく考え過ぎなんだよ。」
耳元で聞こえた溜息まじりのその声に、だってとか、でもとか、そう叫んで言い訳をしたくなる。どうしようもないよ、私はこういう人間だから。あなたとは違うの。どうしたらあなたみたいに、自分の気持ちに素直になれて、自分の行動に自信がもつことができるようになるのか知りたいよ。
「シリウス…。」
「ん?」
「本当に…私でよかったの?」
おずおずと口を開いて、やっと言葉に出せた私のはかない疑問をあなたはどのように受け取ったのだろう。夕日が木立の隙間から零れている。随分と、ここで時間を過ごしてしまったんだなぁ。澱んだ空気を振り払うように彼は私を開放した。それでも尚、近い距離にいる私に、あなたは私にだけ聞こえるように呟いた。
「お前以外に誰がいるってんだ。」
夕焼け空を背負って、あなたの姿は影に沈んでしまったけれど、尖ったように光る灰色の目だけは、ちゃんと私には見えていた。言葉だけじゃ不安か、と微かに笑ったあなたはその両手で再び私を包み込んだ。
「オレはお前のことが、」
すきなんだ。
そう言って君は私に
口付け をした
口付け をした
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20130608
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