短編ログ | ナノ
好きという気持ちに気付いた瞬間

同級生のナマエは、僕の隣でだらしなく口を開けて眠りこけていた。この口の中に、いきなりチョコレートを入れてみたら、彼女はどんな反応をするのだろうか。なんて、そんなことを考えるあたり、僕を置いてグリフィンドールなんかへ行った馬鹿兄と血の繋がった兄弟なんだなぁって、思い知らされて、すこしだけ不快になる。

ナマエは僕と同じスリザリンのくせに、他の寮に友だちを作ったり、ましてやグリフィンドールの兄たちとも仲良くなったり。寮の談話室で悪戯をして監督生のルシウス先輩に注意を受けて、ナルシッサに慰めてもらってたり。その後、また同級生の女子生徒に先輩たちに迷惑をかけるなって叱られてたり…本当、寮の中では騒がしい子。

そうかと思えば、今みたいに、図書館でひとり読書をする僕が、周りの人に『友だちがいない寂しい子』だと思われたら可哀想だからと言って普段は読まない本を読んでみたり。でも結局、睡魔に負けて、僕の隣で気持ち良さそうに寝息を立ててたり…僕の前では、嘘みたいに静かな子になる。

そんな静かな彼女のことを、僕だけが知っていたらいいのになぁ…。だなんて、こんなことを思い巡らしている僕は、―――僕は?


「んぁ…あちゃー、私また寝ちゃってた。」
「…!」

「あ、レギュラス君。ごきげんよう!」

「静かにして下さい。ここ、図書館ですよ。」
「分かっていますとも!」

「だから、声大きいですって…。」


好きという気持ちに気付いた瞬間、目が覚めるのだから。タイミングが良いのか悪いのか。彼女の頬に伸びていた右手が、すんでのところで止まった。取り敢えず…ナマエは僕の中で、空気の読めない人物だということインプットしておこう。彷徨う右手は結局、彼女の頬に触れ、照れ隠しに頬の肉を摘んでやった。


「いひゃい、いひゃい!」
「おやまぁ、伸びる伸びる。」

「はにゃひて〜!」
「あなたという人は…本当に、騒がしい人だ。」


うっすらと生理的な涙をためた黒色の瞳に僕が映っている。「痛たた。いきなり何をするんだい、レギュラス君。」と言いながら、赤くなった左頬を擦るナマエ。どうやら僕には、触れるのをやめるタイミングが難しいようだ。


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20130211
title by 両手じゃ足りないよ、(http://nanos.jp/upto20/)

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