季節は春。
と言ってもまだ肌寒い夕暮れ。
夕焼けの空はあかく燃えていた。
「リクオさま、お体がお冷えになりますよ。」
「あ、名前ちゃん…。」
公園で遊んでいたボクを読んだ澄んだ声の持ち主は、ボクの家にいる妖怪のひとり、名前だった。
名前はボクが生まれる前から、おじいちゃん達と一緒に過ごしてたんだって。
何の妖怪なのか、どんな技が使えるのか。
ボクはまだ何も知らないけど、子供のボクでもわかってることはあるよ。
彼女は長い黒髪に色白の肌、そしてボクの知っている他のどの色よりも綺麗な緋色の瞳を持った妖怪。
「さぁ、お屋敷の中へ戻りましょう…若菜さまも待っていらっしゃいます。」
「うん…わかってるよ。」
たしかにもう、夕食の時間が迫っていた。
ボクもお腹が空いてきた。
「風も冷たくなってきましたし…お体が冷えたらどうするのですか。」
「うぅー…。」
ボクが嫌がるような素振りをすると、名前は困ったように微笑んだ。
多分、名前をこの顔にさせられるのはボクだけだと思う。なんだかうれしい。
ボクはちらり、と名前の顔を見上げた。やっぱり、苦笑い。
ふいに目が合うと、ぽふっと頭に手を乗せられて撫でられた。
一呼吸置いてから名前はゆっくりとした口調で話し出した。
ボクは名前を見上げる。
さわさわと風が吹き抜けて、少しだけ寒い。
「この間、」
「?」
「遅くまで外で遊んでいらして風邪をこじらせたのは何処のどなたでしたっけ?」
…ねぇ、リクオさま、と続けて言い、名前は口元を手で隠しくすり、と笑う。
その綺麗な表情にボクは顔が熱くなった。
「そ、それは…友だちが、」
「言い訳は聞きません。…さぁ、リクオさま帰りましょう。」
「うん。わかってる、でも…、」
「…でも?」
ボクは夕焼けの空を見つめて、なんだか切ない気持ちになる。
あかあかと燃える太陽の光が、名前の黒髪に反射してきらきらと輝く。
「ボクはまだここに居たいな…名前と一緒に…。」
ボクがそう言うと、名前は一瞬だけ目を大きく開いたが、またくすりと口元を隠して微笑んだ。
ボクはなんだか恥ずかしくなって下を向いた。
「そうですか……それなら、鴉天狗に言い訳を考えなければなりませんねぇ。」
「…え?」
反射的に見上げたところに名前の顔はなく、すぐ傍で笑っていた。
名前はしゃがんで、ボクの目線に合わせてくれたのだった。
「さて、リクオさま…何して遊びましょうか?」
ブランコがいいですか?すべり台にしますか、と訊ねた名前はやっぱり笑っている。
「…ブランコがいい。」
「はい。」
季節は春。
と言ってもまだ肌寒い夕暮れの公園。
夕焼けの空はあかくあかく燃えていた。
そしてまた、にこり、と微笑んだ名前。
この表情にさせて上げられるのも、ボクだけだったらいいのになぁ。
そう思った春の夕暮れ。
end
20100417
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仔リクオ(∀`*)
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