授業と授業の合間。
次の授業の教室への移動のために廊下を歩いていると、後ろから知らない声に呼び止められた。
わたしは知らないと言うのに…。
呼び止めたその男子生徒は、わたしの苗字も名前も知っていて、尚かつため口。
そのことに少しだけ、じょわりとしたものが腰から背中を駆け上がって来て妙に怖かった。
だけども、呼び止められたと言うことは、わたしに何か用件があると言うことで…
無視するなんて、そんな良心の傷む行為は、わたしには出来っこ無い。
よって、わたしは、今ここで振り向かない訳には、いかない。
しかし、次の授業は魔法薬学で、あの先生の授業に遅刻することは何としてでも避けなければ…!
「えと、ご用件はなんでしょうか?」
「はじめまして。だよね?」
「さようですね。それで?」
「えっと、その…」
思い切って後ろを振り返れば、グリフィンドールカラーのネクタイをした優しげな男の子が立っていた。
彼の顔を見て、とくに思い当たる節もなければ、彼とは今回が初対面だと言うではないか!
焦れったさと、授業へ遅れてしまうかもしれないと言う不安感から、どうもいらいらとして来てしまう。
一体、目の前の彼は、わたしに、どうしたのだと言うのだ。
「君、ナマエだよね。」
「わたしがナマエじゃなかったら、そもそも君の声に足を止めたりしない。」
「そ、そうだよね。」
だから、わたしがナマエである前に、君はわたしに何用なのだ!
どうして、この授業と授業の合間のこのくそ忙しい移動時間に呼び止めたのだよ!
さっさと本題を話せと、怒鳴ってやりたいくらいだが、目の前にいる彼は、わたしがそうしてしまうと、話せなくなるかもしれない。
ここは、忍耐だ。我慢だ。気長に待ってやるだけの海より深く、山より大きな心を持つんだ!
大丈夫だ、ナマエ。お前ならやれる!
「えっと、僕はグリフィンドールの4年で、君と同級生なんだけど…」
「そんなことは、ハッフルパフのわたしにだって予想はつく。」
「そ、そうだよね、ごめん。」
「それで、君は、どんな用件でわたしを呼び止めたんだ?」
刻々と、授業開始時刻が迫っていることと、なかなか本題を切り出さない男子生徒に苛立つわたしの語彙がだんだんと強くなる。
そういう自分の悪い癖を自覚していることも相まって、さらに気分が急降下していくのが手に取るように分かる。
「その、僕はリーマス・ジョン・ルーピンって言うんだけど…僕、君のこ「おや?ナマエじゃないか。」―き、なんだ!」
「――え?」
「こんな所で何をしているんだ?それに、グリフィンドールの奴なんかと…」
「ルシウス兄様…! 御機嫌よう。」
「ほら、授業がもうすぐ始まるよ。遅刻しないように早くお行き。」
「はい、わざわざすみません、ありがとうございます。」
「それから、そこのグリフィンドール生…二度と私の妹には近付かないでもらえるかな?」
まだ、居たのか…と、半ば驚き呆れながら、溜息をもらすわたし。
そして、兄の登場に左を向いていた体をグリフィンドール寮の男子生徒、ルーピンへと向き直らせた。
折角、言い難いことだっただろうに、絞り出すような自己紹介のあとの彼の話。そこからが、重要そうだったのだが…
生憎、話の肝心な部分をルシウス兄様の第一声によって、遮られた彼の言葉の続きは、わたしの耳には一切入って来なかった。
「それは、無理ですよ。マルフォイ先輩。」
「?」
「僕は、妹さんのこと、好きですから。」
君は僕を好きになる。
つまり自己暗示にすぎないかなしい距離感。
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20120902
title by 深爪(http://incident.1.tool.ms/)
リーマスすきだぁ(´∀`*)
この元のタイトルは「わたしはあなたを好きになる。つまり自己暗示にすぎないかなしい距離感。」でした。一人称、二人称、そして順番を変更して使わせて頂きました。
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