短編ログ | ナノ
銀ナイフは鈍く光る

ねぇ、ベル。
私のこのもどかしい君への想いをどうにかして。ああ、さっさと吐いて楽になりたいよ。


「そうよ、ベル…ナイフを貸しなさい!」

「は?」


そうだ、楽になる為には死ねばいい。臆病な私は君へなんて、この想いを告げられるはずがない。こんなにももどかしいならば、この想いに、この気持ちに、そして自身にも終止符を打てばいい。自らの手で。

「なに?…名前は死にたい訳?」

私はこんなにも切羽詰まってる状態なのに、ベルは不思議そうに聞いてくる。今、目の前にいるベルにこの想いを伝えることが出来るのならば、私は死ななくてもいいのかな?


「死にたい。…ううん、死にたい訳じゃない……でも死にたい…。」

「はぁ?意味分かんねぇー。」

「うん、自分でも意味わかんないや…なんでこんなに苦しいのか、」


ふかふかのベットに寝そべって、雑誌を読んでいるベル。やっぱり、ここに来たのは間違いだったかな。

「そんな訳分かんねー理由で、お前に王子のナイフなんか貸すかよ。」

「ケチだね、ベルは…。」

だけど、どうせ死ぬんだったら、ベルのナイフで死にたい。最期の時まで君を感じていたかった。そう思ったから、ここへ来たのに。


「こんな人生…もう嫌だよ、だから…」

「めんどくさいなぁ…何なら王子が殺してやろうか?」


ベルに殺して貰えるのなら、私は本望だ。それにナイフを貸さなくていいし、こっちのほうが良いかもしれない。ベルってば賢いね。

ししっ、と独特の笑い方をしながら、静かにナイフを構えるベル。


「いいよ、殺して。」


ぽつり、と呟いた私の一言にベルは目を白黒させたのが雰囲気でわかった。

「ッ!おま…名前、それ本気な訳?」

一瞬の沈黙の間も、私とベルは微動だにせずにお互いを見詰めていた。目の前に居るのに、伝えることの出来ないこの想い。臆病な私には大きすぎる君への想い。こんなもやもやとしたもどかしいままの気持ちなんて嫌だ。

この先もずっと、ベルの傍に居たらきっと、この気持ちはもっとふくらむ。諦めも、告白の勇気も持ち合わせていない私には、永遠地獄。こんな生殺しな人生なんて、終わってしまえばいいんだ。


ああ、もういっその事死んでしまいたい!


こんな理由で死んでしまうのは、やっぱり馬鹿みたいだろうか?
だけど、これは私には重要で。


「んじゃぁ、遠慮なく……って名前。お前―――」


何泣いてるんだよ、と振り下ろされたベルの腕とナイフがかすった私の腕。死ぬ、そんなことを考えたら、やっぱりこわくなった。やっぱり、死にたくないって思った。だから涙が出た。


「ははっ…これから死ぬ奴が、…何、泣いてんだろうねっ…ごめっ」


びゅっ、びゅっ、と私に向かってナイフが投げられる。ベルの表情がここからでは見えない。

「クソッ……はずした。」

反射的に避けてしまうベルのナイフ。さっきまでは死にたくて、死にたくて、死にたかった私なのに。小さくぼそっと呟いたベル。そして、すぐにまた三つナイフを投げ付ける。


「…避けんな、よ!」


日々鍛えられてきた、私の体は迷いのある心を無視して、やはり避けた。だけど、全てのナイフは避け切れなくてナイフが右肩をかすめ、私は体勢を崩す。


「っ!…痛」


倒れる、そう思って目を思い切りぎゅっと瞑った。しかし、予想していた衝撃は一向に来ない。そのかわりに、何かあたたかいものに包まれているような、そんな感覚がした。


目を開くと、そこにはベル。
横に倒れそうになった私を、ベルは抱きかかえるようにして支えてくれていたのだった。ベルは私を抱き起こして体勢を整えると、やさしく背中に腕をまわしてきた。そして、私は気付いてしまった。


「なぁ…名前、こんなことやめようぜ…なぁ、頼むから…っ」


彼が、ベルが震えていることに。


「ご、…ごめっ」


そのことに何かが切れたようにどっと涙が溢れた私を、ベルは抱き締めてくれた。ベルの腕の中はとってもあったかかった。


「オレ…名前を心底気に入ってるんだ。」
「…ぇ、」

「お前に惚れてるんだ、きっと。」
「ほん、と…に?」

「お前バカ?…嘘ついてどうすんだよ。」


それだけ言うと、ベルはずるり、と私を抱いたまま床に座った。なので私も自動的に座り込む。ベルにしては、いつもよりも弱々しい声音だった。


「お前が死んだら、王子…生きていけないだろ。」


あぁ、もういっその事、死んでしまおうなんて思わない。私たちは大きな過ちを犯すところだった。ベルの震えが伝染したみたいに、ざわざわと私の腰から背中を走った。

ただしい愛し方も知らないで、昨日までとは違うこれからが、明日からは続くのだろう。

銀ナイフは鈍く光る


end

20100417
20130606 加筆
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ヒロインこわれてるーるるー
title by 星葬(http://jinx.in/end/)

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