短編ログ | ナノ
くろいまなざし

「名前先輩」

「…なにフランくん」

「ちょっとちょっと」

「…?」



任務から帰って来て、報告書を仕上げた。
自室から出て、ボスの部屋へと向かう途中。
最近幹部になったフランくんに声を掛けられた。

眠たい私は、なんだと思って振り向く。
するとそこには、ぎょろりとした大きな目が…


(…っ!)


特徴的な形につやのある黒いカエルの被り物が立って居る。
この被り物はベルに無理矢理被せられているものだそうだ。

内心、そのデフォルメにびびった私。
彼にバレてはいないだろうか、と少し不安に思った。



「…どうしたの?」

「名前先輩って、もしかして」

「…なに?」

「今からボスのとこ行くんですかー」



私は足を止めて、体をフランくんの方へ向けた。
フランくんは被り物の目をぎょろつかせながら、こちらへと近寄って来た。

彼の手には報告書が握ってあった。
話の流れから、ついでに私に自分の報告書も提出してもらおう。
という、そんな魂胆だろうか。



「…まぁ、一応」

「ちょうど良かったですー」

「ダメ」

「…まだミー、何も言ってないじゃないですかー」



私はフランくんに何かを言われる前に断った。
それを聞いたフランくんは、すねたような顔付きで怠そうに言った。

だってねぇ、自分の報告書くらい、自分でださなきゃダメでしょう。
いくらボスの部屋に入り難いからって言って、人に押し付けたりしたら…



「ダメよ、フランくん。報告書は自分で出しに行きなさい」

「名前先輩、勘違いしてますー」

「…え?」

「ミーは先輩と一緒に行こうと思っただけですから、」



フランくんは肩を落としたように話す。
それを見た私は、何だか申し訳なく思った。

それから私は視線を落として、気まずい空気に右手で髪を掻き上げた。
どうでもよさ気に私を見遣っていたフランの目が微かに反応した。



「…ごめんね、私てっきり…」

「それじゃあ、名前先輩、目瞑って下さーい」

「…目?」

「ほらほら、早くー」



いきなり目を瞑れ、なんて言われても…
私は何をする気だよ、と疑う気持ちを抑える事ができない。

急かすフランくんに、私は大人しくしたがって目を閉じた。
すると、近寄ってくる気配に身を硬くした。



「名前先輩、」

「なっ…!!!」

「…もしかして先輩、はじめてですかー?」

「ちがっ、…フランくんっ!!!」



名前を呼ばれて反射的に目を開く。
と、そこにはフランくんの顔のドアップが…

それから、ふにょっと唇にあたたかな柔らかいモノが当てられた。
いつもより少しだけ、赤みがかったフランくんの頬。
そして、きょとん、とした表情。



「先輩、…かわいいですー」

「う、うるさいっ!うるさい!」

「照れてますねー 確実に。…顔赤いですよ先輩?」

「もう!フランくん何か知らないっ」



私はその場から逃げるように立ち去った。
いきなりキスなんてどうよ、相手の同意も取らずに!

だけど、フランくんとのキスが嫌じゃなかった…
なんて感じている自分もいて、とにかく恥ずかしかった。


end

20110110

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