昔、あなたからもらった地図を頼りに、遠い田舎からはるばるとあなたの住んでいる所へやってきた。久し振りに会うという緊張感は特になくわくわくもどきどきもしない。
何故だろう?彼との再会を喜んでいない訳ではない。でも、何だろう…この気持ち。自分でも分らない。しかし、不思議と恐怖感はなく、それどころか心地よさまで感じる。心臓は至って平生の動きを保っていた。
「家賃はちゃんと先月払ったはずで……あ。」
「…………小太郎。」
何年振りかに聞く彼の声は昔と変わらず心地よい。だけど、この会話が再開後はじめて交すものだろうか?チャイムを鳴らすとガラス戸越しに動く人の陰。数秒後には玄関の引き戸が10センチ程度開けられて先ほどの会話。
「……名前、か?」
「そうだよ、小太郎……久し振りだ、」
久し振りだね、と私が言い終わる前にその言葉は小太郎によって遮られた。小太郎が勢い良く私を抱き締めたからだ。
小太郎――――?
こぽぽ…とお茶が急須から二つ湯飲みに注がれて行く。私はそれを静かに見ている…と言っても正しく言うのなら、それをしているこの白い着ぐるみ?天人?かも知れないけれど、その物体を見ていた。
二つの湯飲みにお茶を注ぎ終わり、その着ぐるみは私に湯飲みを一つ差し出した。「ありがとう」と言って、私はその着ぐるみからお茶を受け取る。熱くはない。むしろ、それを温く感じた。
「すまない、名前…。」
「え?…――――あぁ、あれのこと?」
「そうだ…」
”あれ”とは先ほどの小太郎が玄関で名前に抱きついたことを指していた。いきなりのことで固まっていた私を助けてくれたのは、この白い着ぐるみだった。
『こ、小太郎!?』
『名前、名前!あぁ、よかった。本当に本当に――!』
『ちょ、っと…は、離れてよ!…ねぇ!小太郎!!』
『何を言ってるんだ…名前、俺は―――ぐぁっ!!』
その着ぐるみは小太郎の頭を勢い良く手にもっていた看板?で殴りつけた。そして、その衝撃で小太郎は気を失った様で、くたり、と着ぐるみに体を任せていた。
着ぐるみに案内されて部屋に上がる。と、この部屋に着いたのだ。そして今、小太郎は意識を回復してお茶を飲んでいるという訳である。
「気にしてないよ。
…ただいきなりだったから、その…びっくりしちゃって。」
「名前…。」
小太郎の困ったようなやさしい笑みは今も変わらず、私に向けられた。だけど、彼と言うものが昔から変わっていない訳ではない。わたしにはなんとなく分かる。感じている。
「……小太郎は…変わった ね。」
「そうか?……名前に言われるんだったら、俺も変わったんだろうな。」
自分ではなかなか変化に気付けないものだ、とそう言った小太郎はなんだか昔よりもずっとかっこよくて、大人になっていた。胸がちくりとした。
「うん……小太郎は変わった…私も、ね。」
「この国を立て直そうとする志だけは変わってないぞ。」
「…そうだね。攘夷志士やってるんだよね、小太郎は。」
小太郎は攘夷志士のリーダーで、真選組に追い掛けられている日々を送っている。その話を小太郎の口から聞けて私は、何だかホッとできた。長い間会わないうちに、多少変わってしまったところもあるけれど、彼は彼。志は今も昔も変わっていないらしい。胸の痛みが少しだけ安らぐ。
「それと―――」
「何?」
「名前、お前に対する気持ちもあの頃と変わらずにここにある。」
「…それって、」
小太郎は机越しに私の頭を撫でた。いつもより真剣な目をしている。そして、その手を背中まで下ろしたと思ったら、私の体を引き寄せた。心臓がどきりと音を立てて跳ねた。たぶん、彼は気付いていないのだろうなぁ。
「俺の生活は真選組に追われてるから並の幸せなんぞ味わうことが出来ぬかもしれん。」
「………。」
「だけど俺には名前が必要なんだ。」
「……!」
「名前、俺と再び戦ってはくれぬか。」
小太郎の私をぎゅっと抱き締める力がより強くなった。「再び戦ってはくれぬか」その言葉に、私の気持ちがぐらりと揺れる。心臓が冷えていく感じがした。
「私は―――」
昔、あなたからもらった地図を頼りに、遠い田舎からはるばるとあなたの住んでいる所へやってきた。久し振りに会うという緊張感は特になくわくわくもどきどきもしない。
何故だろう?彼との再会を喜んでいない訳ではない。でも、何だろう…この気持ち。自分でも理解し得ない。
けれど、でも…ただ一つ分かっていることがある。私の答えには「あなたと共に戦います」の言葉だけ。自分を犠牲にして手に入れた幸福は、いつか私を殺すのだろうか。
それでもいい、と
今の私は思っている
今の私は思っている
あなたが傍に、置いてくれると言うなら。
end
20100517
20100818 修正
20101228 再UP
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たずねてみたよ
title by へそ(http://pppp.2.tool.ms/)
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