あーあ。折角のカッコいい隊服が…私が今持っているのは、さっきまで来ていた黒い隊服だった。それは、ヴァリアーに入隊すれば、誰でも貰える支給品である。
喪服の様に全身真っ黒にして、暗殺業を営む我らがヴァリアー。しかし、私が今手にしているのは、敵の返り血がこびり付きそれが赤黒く乾いてへんなシミを作ってしまっていた。
「あ、名前じゃん。おっひさー」
「ベルだ!お帰りなさい!」
丁度そのとき、ベルが帰って来た。もちろん、お供のフランと一緒に、だ。
「ミーも居ますよ、名前センパイ。」
「うん、分かってるよー お帰りフラン。」
「ただいまー、です。」
フランはいつものトーンで話した。ベルは眠いからと言って、私に書類を手渡し自室へと帰っていった。
「あれ、この書類…」
「どうしたんですか、名前センパイ?」
「ベルってば……まだ途中なんだけど…」
「あの堕王子…面倒なことしやがって……」
「…仕方ないね…私、書いてあげようかな。」
「センパイがする必要無いとミー、思いますー。」
「でもねぇ…」
フランはそう言って、私の手から書類を取った。そして、その書類に目を通す。
「これくらい、あの堕王子にでも書けますからー
ミーがあとで渡しに行ってきますよー…
ほんっと、最後までちゃんと仕事しない王子っていやですねー。」
「いや、それ人特定されてきちゃうからね…」
あれ、と言って、フランは私の持っている隊服に目を向けた。私は不思議に思って、フランの言葉を待った。
「名前センパイも、今日任務だったんですかー?
隊服、返り血付いてて模様みたいじゃないですか…」
「はは…まあね…」
「怪我してませんかー センパイおっちょこちょいですからね。」
「おっちょこちょいって、失礼な…大丈夫、怪我はしてないよ。」
「そうですか、よかったですねーセンパイ。
ミーはまたあの堕王子に悪趣味なナイフ投げ付けられて
背中がボロボロです……あの堕王子いつか殺す。」
確かに、フランの隊服の背中にはベルのナイフによってつけられた傷でいっぱいだ。
どんなに丈夫な隊服でもこのズタボロ加減を見れば、ベルのナイフの殺傷能力が高いことがよく分かる。
「ところでさ、なんでフランは自分のことミーって言うの?」
「……そんなこと、初めて訊かれました…そうですねー…
なんでかって言われても、ミーはミーだからです?」
「なんで最後、疑問系なのよ…」
私は持っていたスプラッタの隊服を折り畳んで小さくした。その間、フランはぶつぶつと何かを言っていた。
「ねぇ、センパイ。…ちょっといいですか?」
「なに?……」
『俺、名前センパイのことが
好きなんですけど 付き合ってくれませんか…』
「…………………………っ!!?」
ペタン
私はフランの言葉を聞いて、その場に座り込んでしまった。どうしていきなり私が座り込んだのか、分らないフランは焦って、私を問いただす。
「センパイ!大丈夫ですか、どうしたんです!?
やっぱりミーには”俺”は似合わないんですか!」
「……いや、その逆だよ。似合わないとかじゃなくて
本気でかっこよかったから、腰抜けちゃったの…立たせて?」
フランは私の手を取って立たせてくれた。その際に近付いたお互いの顔が、妙に恥ずかしくてフランが見れない。
「それで、名前の返事は?」
「…もちろん、はいで。」
「よっしゃー!やりましたー 名前センパイゲットです。」
いつものトーンで言うと、フランは私の頬にキスをした。私は思わず顔が赤くなったが、仕返しに口元にキスをした。
「センパイからキスしてもらえるなんて、夢のようですー。」
「ねぇ、フラン。一つだけ約束してくれる?」
「なんですか?センパイとの約束だったら守りますー。」
『もう、一人称で"俺"は禁止ね!』
えー何でですかー、とフランは不満顔で私に言うが、ちゃっちゃとスプラッタの隊服を小脇に抱えて、私は部屋を出た。
だって、毎回あんな風に話されたら私の心臓がもたないじゃない!君の一人称に対する私の見解は『かっこ良過ぎるので、使用禁止』です。
end
20101031
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