「いつか正夢」 審神者就任2年目の秋ごろのお話 「秋めいてきたなあ」 箒を手にお庭を歩く。落ち葉。見かけると、いまだにその上を歩きたくなってしまう。秋の音。視線を上へ持ち上げる。葉が少なくなった木は遠くで見ると寂しげだけれど、近くでみると伸びた梢が綺麗だ。上へ上へと視線を上げすぎて、うっかり転びそうになった。危ない。 「主!」 「 加州。おはよう」 「おはよ、 転びそうになってなかった?」 「梢がね きれいでね。上ばっかり見てて」 「もー… 気をつけなよね」 「大丈夫!転ばなかった」 「はいはい。でも、確かに」 さっき 私が辿った曲線を加州の目も辿っていく。「きれいだなあ」と言ってくれる。加州のこういうところ、とてもいいなあと思う。私のささやかな言葉を大切に拾って、やさしく返してくれるところ。にこにこしながら加州を見ていたら、目線を戻した加州がきょとんと私を見やる。 「あるじ…」 「ん?」 「まーたそんな寒そうな格好して」 「へ?そうかなあ、」 「鼻がちょっと赤くなってる」 「うそ」 「うそじゃない。あー もう」 加州が自身の首元に手をかけて、そこに巻かれていた赤い襟巻をくるくると外していく。外したそれの、ちょうど半分くらいのところを私の首にひっかけた。くる、一回り。くる、二回り。 「はい、できた」 「…あったかい」 寒かったんだなあと、そのとき初めて気づいた。加州は、私よりも私のことを知っているかもしれない。最近、よくそう思う。 暖かさを求めて、顔を襟巻にうずめる。あ、 「加州」 「ん?」 「加州のにおいがする」 「…」 「ふふ、いいにおい」 「…えい」 「ぐあっ」 襟巻の端と端を持って、加州がぐいっと引っ張った。おかげで 私の首は少し締まって おかしな声が出る。 「苦しかった…」 「主が悪いんだからね」 「え、どうして」 「…かわい「あー!!!」」 「清光!ずるい!」 「うるさいのが来た…」 「大和守さん、おはようございます」 「おはよう、主。ねえ、それずるい。僕もやっていい?」 「? どれですか?」 「襟巻!僕も主に巻きたい」 「へ」 一つまばたきができたと思ったら、大和守さんは自分の襟巻に手をかけて外していた。言葉をお渡しする前に、私の首元にどんどん巻かれていく白いそれ。 「できた!」 「主の顔、ほとんど埋まってるけど」 「 ぷは、 あはは あったかいです」 右手で襟巻を下げて、息の隙間を作る。ちょっと苦しい。でも、あったかいなあ。首元も 気持ちも ほかほかだ。 でも。 「私ばっかりあったかくなってしまって… 二人が寒そうに、」 「もこもこした主を見てたらあったかい気分になるよ」 「主が寒くないなら、俺たちはそれでいいの」 二人とも少し鼻が赤くなっている。でも、今は知らないふり。その代わり、お二人が好きなほうじ茶を、おやつをつけて 後でお渡しすることに決めた。 季節は秋。でも、ここだけ春みたいにあったかい。 透きとおる余白 title by 液果 |