「また一番じゃなかった」 ひゅうと吹いた風に吹き飛ばされそうな私の台詞。背景には大きな夕焼け。大学からの帰り道、いつもは楽しく歩くこの道が今日はちっとも楽しくない。スマートフォンを握りしめながら、それでも私は足を進める。家に帰りたいような、寄り道したいような、そんな気持ち。 お気に入りの斜めがけ鞄に少し重さを感じて、また苦しくなる。大切な私のカメラの重み。いつもならその重みが嬉しいのに。今日は苦さが広がるだけだ。 踏ん張って進めていた足が止まる。目元がぎゅっと熱くなるのが分かって、我慢して上を見る。もうすぐで私のパワースポットに着く。もう少し。 大学から歩いて10分。私が勝手に命名したパワースポットの土手に着く。草の上に腰をかけて、一息。目の前にはめいっぱいの川と夕焼け。 「今日も、悔しいくらいきれいだなあ」 今日の私はやさぐれている。いつもなら嬉しいことや楽しいことにまで、むっとしてしまう。子どもだ。そんな自分が恥ずかしくて、ついに目から頬にかけて ぽろっと筋ができる。 今日は応募していた写真のコンクールの入賞作品の発表日だった。何を撮るか、いつ撮るか、どんな手法で撮るか、どんな気持ちを込めて撮るか。その1枚に、私は自分をかける。今回はきっと、と どきどきしながら、本当に どきどきしながら 電話を待ったのだ。 入賞者には審査機関から電話がかかってくる。かかってこなかったらどうしよう、そんなはずは、と 今までの自分の毎日まで振り返ってみたりして。 電話は、あった。ただ、2番だった。 恐る恐る 大賞を訪ねると、聞きなれた名前。また、あのひとか。 好きなことで一番になれない。悔しい。でも、大賞を受賞したひとの写真を見て、気持ちが揺れる自分が居る。重ねて悔しい。大学生にもなって、土手で夕焼けを眺めながら ぼろぼろ泣いている自分が、恥ずかしい。袖で涙を拭う。 「おねーさん」 背中から軽やかな声が跳ねてきた。前と横を見渡せど、私以外に人は居ない。...私のことを呼んでくれたのだろうか。お姉さん、なんて 呼ばれなれていないからどぎまぎする。ゆっくりと後ろを振り向く。 「あ、やっぱり泣いてる」 ぱっちりとした薄緑の目が印象強い、多分、男の子。髪の毛に夕焼けの橙が映ってきれいだ。背中しか見えていなかっただろうに、泣いていると見破られて 私はあっけにとられる。とてとてとその男の子は歩いて、私の隣にしゃがみこみ、白いハンカチを渡してくれた。「ほたる」、刺繍で書かれた文字。この子の名前だろうか。 「だいじょうぶ?それ、使っていいよ」 渡してくれたハンカチと大きな目のついたきれいな顔を見比べて、「ありがとう」と返す。あ、鼻声になってしまった。 「悲しいことでもあったの?」 「かなしいこと、」 悲しい、わけじゃない。私は、悲しいわけじゃなくて、多分、悔しい。 「悲しくは、なくて 悔しいの」 「泣いちゃうくらい、悔しいんだね」 「...うん。本当に好きなことだから、誰にも負けたくなくて、う、」 男の子が私の顔を覗き込んで、ぽんぽんと 私の頭にふれる。 「元気がないときは、こうしてもらえるとおれは元気になるんだ」 ほんのり笑ったその顔が大人びていて、私の方が子どもみたいだなあとぼんやり思う。気づけば、涙が止まっていた。魔法使いみたいな男の子だ、 「おねーさん」 「はい、」 「まだ時間ある?」 「時間...大丈夫です」 「なんで敬語なの」 た、確かに。にっこりしながら、男の子は立ち上がって、おしりについた草を払う。 「いいところに連れていってあげる」 それが私とあのお店の始まり。 エンドロールは来世にて title by 夜半 |