08

待ち合わせのポストの前にはすでに彼がいて、わたしを見つけると大きく手を振ってくれた。テスト当日定番の、問題出しあいっこをしながら自転車をこげば、あっという間に着いてしまった。複雑な道ではなかったしそこまで疲労感もなかったから、自転車通学も考えてみようかと思った。

今日は最終日だったからか、最後のテストが終わった瞬間誰からともなく拍手がわきおこり、小柄な男子がなぜか胴上げされていた。みんな疲労と安堵が混ざりあったような表情を浮かべていた。

「栄口終わったねー!」
「お疲れさま。できはどう?」
「うーん、まあやりきったから悔いはない!」
「はは、オレも同じかも」

そこへぱたぱたと走ってきたのは田島くんで、清々しい顔で部活だー!と叫びながらグラウンドの方向へ去っていった。お互いにあっけにとられた顔のまま見合わせてしまい、昨日の成果が出てればいいね、なんてふわりと笑った。

「やっと部活解禁だね」
「うん。明日開会式であさって桐青戦だから気合い入るよー!」
「ついに開幕だ……ってことは試合前会えるのは今日だけ?」
「そうなるね」
「……そっか」
「……水谷のとこ行きなよ」
「え」
「きっと喜ぶから」

まだ間に合うよ、と彼の言葉が耳元で響く。わたしの恋を応援してくれてる、ってことかな。それはとても心強くて、わたしは7組に走った。ホームルームが終わったばかりのごった返す教室だったけれど、目当ての彼はすぐに見つかって、やっぱりすきなんだと確信するのだ。

「お、深田じゃん」
「あ、あのね……」
「どーした」
「たぶん、もう会えないだろうから……桐青戦がんばってね!わたしもいっぱい応援するから!」
「おー!見とけ見とけ!」

このひとは、なんて笑顔を浮かべるんだろう。人をひきつけて応援したくなるような、晴れ晴れしい笑顔。練習試合を見た限りでは、そんなに野球が上手いという印象は強くなかったけれど、彼なら何かやらかしてくれると思ってしまう。わたしには、あんな笑顔は作れない。わたしと彼で何がちがうのか、わからない。

こんなことを思い巡らしてみたけれど、実際のところ彼は何も考えてなんかいなくて、根拠のないことばかり言って、そのくせにわたしには一瞬で何かを悟らせてしまうのだから、憎たらしい以外の何ものでもない。

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