07
期末テスト1日目が終わった。下校時刻までかなりの時間があるから学校に残るひとも多そうだ。明日の教科は英語と古典だから、毎回の古典の小テストで満点を取る栄口のところには、ひっきりなしに誰かがいた。
「栄口、古典教えてくんね?」
「おーいいよ。どこ?」
「ワーク20ページの問3」
「あ、そこわたしもわかんなかった!聞く!」
隣の席をキープしていたわたしは栄口の言葉に勝手に耳を傾け、ワークをうめていった。しばらくするとひとの波は収まり、みんな帰ったり図書館にでも行ったのか、教室には数人だけになった。
「さっきはすごい人だかりだったね」
「今が旬な若手芸人にでもなった気分だったよ」
「あはは!そういえばもう大会始まるよね」
「そうなんだよ、勉強してる暇なんてないのに!」
「でも赤点取ったら部活行けないんでしょ?」
「うん……自分より三橋と田島が心配なんだよなー」
「わかるわかる」
「……ちょっと9組行ってもいい?悪い予感がする」
「うん!」
9組に行くと彼の予想通り、必死に机に向かう三橋くんと、頭をかかえる田島くん、そして呆れた表情の花井くんがいた。
「おー花井やってたのか。大変だな」
「栄口……助けてくれよ」
「いいよー」
「花井ーできたぞー」
「どれどれ……だから、ここは過去完了だからhaveじゃなくてhadだって何回も、」
「わっかんねえよー!トムがイギリスに何年間いたかなんてどうでもいいんだよ!」
「トムにとっては重大なんだよ!」
だんだんと机を叩きながらトムのイギリス居住年数について考える意義がわからないと訴える田島くんに、花井くんは疲れはてていた。そんな彼があまりにも不憫に思えてしまい、わたしと栄口が9組の問題児コンビに勉強を教えることにした。「何がわからないのかわからない」というふたりに教えるのはたいへんな労力が必要だった。気づかないうちに日は暮れ、下校の放送が流れたからわたしたちは帰り支度を始めた。
「今日はありがとなー!ちゃんと宿題やるからなー」
「オ、レも、がんばるね!」
「うん、お願いだから補習は回避してね……」
「花井くんもお疲れさま!」
「おう。じゃあな」
わたし以外はみんな自転車で、それぞれの方向に散っていく。そのなかで栄口は、とりあえず途中までは同じ道だからと隣で歩いてくれた。こんなこと、前にもあった。帰り道にばったり会って、ふたりでひとつのイヤホンをして、初めて水谷の存在を知った日だった。
「深田は自転車でこないの?慣れれば楽だよ」
「道わかんない……あと体力がもつか心配」
「うーん、じゃあ明日一緒に自転車で行ってみない?オレテスト期間終わったら朝練始まっちゃうからさあ」
「ほんと!それなら連れてってもらおうかな」
「オッケー。とりあえず家まで送ってくから、後ろに乗りません?」
「あはは、じゃあお願いします」
腰に回した腕から伝わる体温と、少し冷たい夕暮れの風が心地よかった。初めての二人乗りは初々しいナビゲート付きで、いつもの道に淡い色をつけたようだった。
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