05
翌朝うっかり寝坊して2本遅い電車で行ったら、昇降口で朝練帰りの野球部と鉢合わせした。ぽかんと突っ立っていると、何人かの部員が会釈してくれた。
「あ、ども」
「あ、えっと、西広くん!」
「泉っす。西広はあっち」
「……ごめんなさい……」
「あははわかりにくいよなー!泉はそばかすで覚えれば楽勝だよ」
「黙れ水谷」
泉くんの後ろから水谷くんが顔を出した。なるほどそばかすか。水谷くんは冗談半分で言ったんだろうけれどわたしにとっては魔法の公式のような言葉になった。そのまま3人で教室に向かい、1組の前で別れた。わたしのとなりの席にはすでににこにこと手を振る栄口くんがいた。
「おはよ深田。さっき絡まれてたでしょ」
「おはよう!泉くんと西広くん間違えちゃった。泉くん怒ってるかも」
「昨日初対面だったんだし大丈夫だよ」
「それならいいんだけど……」
栄口くんは野球部のメンバーについて教えてくれた。まだピッチャーの三橋くんと花井くんくらいしか聞いていなかったから、一生懸命に聞いた。泉くんはあの童顔に似合わずクールで毒舌らしい。水谷くんとは悪口を言い合う、というより一方的に悪口を言う関係だそうだ。
「そうそうフェンスの外にいたのわたしだってわかってなかったでしょ」
「……ぽいなあとは思った。私服だったしわかんないよ」
「わたしは帽子かぶってるしみんな同じユニフォームだったけどわかったよ!」
わたしは頬をふくらませてみた。西浦は私服校で中学の制服やなんちゃって制服を着ているひともたくさんいるけれど、わたしも漏れなくそのうちのひとりだ。従姉妹のお姉さんからもらった黒いセーラー服を着ている。緑色のスカーフがとてもおしゃれで、日本のかわいい制服ベスト5に必ずはいると教えられた。そろそろ白い夏服に衣替えしなきゃとは思ってるんだけれどたんすから出すのが面倒で未だに冬服のままだ。彼の理屈だと、夏服を着るだけでも見分けがつかなくなってしまうんじゃないかな。
「な、夏服になるだけだったらさすがにわかるよ」
「ほんとに?」
「おう!」
「じゃあ、明日着てきちゃおっかな!」
次の日、鏡の前で真っ白いセーラー服を着たらなんだか気持ちが高ぶってついポニーテールにしてしまった。難易度あがっちゃったかもと思いながらも教室に入りとなりに向かってだーれだ?と声をかけると深田!と笑う彼もおろしたてのワイシャツ姿で、一気に夏が近づいたような気がした。
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