03

五月晴れの日は夕焼けまできれいだった。シャッフル再生していた白いウォークマンはまるで風景を読み取ったかのように、バンプの真っ赤な空を見ただろうかを流し始めた。そういえば今日の体育栄口くん大活躍だったなあ、栄口くんもどこかで見てるかなあなんて思っていると、キィという音と共に例の彼がわたしの視界に現れた。

「やっぱり深田だ」
「……エスパー?」
「え、ええ?」
「あ、いや、ほら夕焼けがきれいだったから!」
「ん?ああ、ん?うん。何聞いてるの」

ちょっと戸惑いながらも軽く流してくれるあたり、よくできたひとだと思う。わたしは左のイヤホンを外して彼に渡した。さわやかなシトラスの香りがした。ちょうどよく曲が終わって、新しい軽やかなギターがわたしと彼をつないだ。

「……あれ、これ赤シャツ隊?」
「知ってるの!?」
「あーうーん、オレの部活仲間のウォークマンで聞いた。気ィ合うかもね」
「ぜひともお近づきになりたい……!」

もし栄口くんがすきだと言うなら某赤い少佐のような早さで赤シャツへの思いをまくし立てるところだった。その彼は7組の水谷くんと言うらしい。インディーズバンドだからなかなか語れるひとが見つからなくて、大絶賛友達募集中だったのだ。次の日の昼休みに7組に向かうと、めぐと千代ちゃんが一緒にめぐの席でお昼を食べていた。わたしに気がつくとふたりとも手を振ってくれた。

「はいはい今日はなんでしょうか、数A?世界史?」
「ちがうよ!今日は尋ね人を探しに」
「尋ね人?」
「水谷くんてどこにいる?」
「え?オレ?」

めぐの前に座っていた茶髪の男の子が振り向いた。そっか、水谷、目黒の並びか。彼は頭の上にハテナマークを浮かべながらわたしを見ている。

「あ、あのね、栄口くんから聞いたんだけど、赤シャツすき?」
「え、すきすき超すき!」
「お友達になってください!」
「よよよよろこんで!」

差し出した右手は彼の両手でぶんぶんと振り回された。フレンドリーなひとだと思った。そのままの勢いで赤シャツの良さについて語り、ふとまわりを見るとみんなあっけにとられたような顔をしていた。

「……深田ってこんなマシンガントークもできんのな」
「あ、阿部くん!覚えててくれたの」
「1年のとき一緒に学級委員やっただろ」
「だよねえ!」
「え、同中?」

忘れられてなくて安心した。2、3年生のときは接点がなかったからわたしのなかの阿部くんは中1で止まっているわけだけれど、髪も伸びて背も伸びてまるで別人のようだった。でもちょっと俺様っぽい雰囲気とか、嫌みったらしい口ぶりとかは全然変わっていなかった。こんなこと絶対言えないけれど。とそこへ後ろのドアから栄口くんがはいってきた。

「深田7組来てたのかよー言ってよ」
「水谷くんと友達になった!」
「……あれ、オレ名前聞いたっけ」
「あ、1組の深田です!阿部くんと栄口くんと同中」
「ちなみにうしろの女子ふたりも同中」
「マジで?うわっ囲まれたぞどうする花井!」
「どうもしねーよ」

阿部くんと花井くんも野球部らしい。花井くんは、栄口くんから聞いていた坊主で背が高い頼れるキャプテン、というイメージそのままで思わず笑いそうになるのをこらえた。野球部仲良さそうだなあ。水谷くんといつかのライブを約束してわたしは7組を後にした。

赤シャツ隊というバンドは創作です

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