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両親からの許可も無事もらえたわたしはさっそく浮かれ始め、放課後ふらふらと街へ出た。店員さんに言われるがままお店でいちばん高いボディクリームとふわふわの部屋着を買い、途中通りすがったランジェリーショップにも誘い込まれ、絶対に制服の下には着られないような下着も買ってしまった。これが本当の勝負下着か。赤いTシャツは、しばらくタンスに眠ったままだ。



▽▽▽



澄み渡った空の下、この季節にしては気温が高く半袖でも暑いくらいだった。家庭科室の冷凍庫を独占していたビニール袋を開けると、時を待っていかのようにみずみずしい香りがあたりを包む。サイダーベースに缶詰の果物を入れたアイスキャンディーは、我ながら自信作だ。

「おつかれさま!差し入れどうぞ」
「え、アイス?!皆喜ぶよー!」
「今日暑いから、持ってくならここかなって。千代ちゃんも食べてね」
「だからクーラーボックス借りに来てたんだね!ありがとう」

遠くでバットを振る彼は、わたしには気づかない。少し千代ちゃんの隣で涼ませてもらって、そのまま帰ることにした。校門へ向かう道の途中で、腕いっぱいに荷物を抱え歩いてくる女の子と目が合う。名前と顔が一致するくらいの知り合いを、素通りするわけにもいかず立ち止まった。

「え、えりかちゃん」
「……先輩」
「大変そうだね、半分持とうか」
「結構です」

親切を断られるのは割とダメージが大きい。澄まし顔で通り過ぎていく彼女に負けじと、わたしもできる限りの笑顔で見送った、つもりだった。

「さっき、家庭科室から出て行くの見かけました。差し入れですか?」
「うん。アイスだから、よかったらえりかちゃんも食べてね」
「ありがとうございます。おなか壊しやすいのでやめておきます」
「あ、そうなの……」

気まずい沈黙が辺りを包む。断るくらいなら言わなくてもいいのに。抱えた荷物も重そうで、わざわざ呼び止める理由の方が見つからない。去るタイミングを逃したわたしは日射しを遮る手段もないままただ困惑していた。

「……わたしが言うことでもないですけど。もう差し入れとか、やめてもらえないですか?」
「え?」
「去年は同学年しかいなくて内輪ノリもあったのかもしれないけど、もう後輩が入ってきてるんです。いつまでも身内面されてたんじゃたまりません」
「……身内面」
「彼氏だけならともかく、部員皆にってなんか媚び売ってるみたい。わたしは嫌ですけどね、そんな彼女」

教室から聞こえた無邪気な甘い声の記憶もまだ新しいはずだけれど、同じ唇が震えているとは思えないほど刺々しく吐き捨てられる。わたしの彼氏が誰なのかももう知っていて、言うのだろう。

「皆真剣に頑張ってます。部外者が頭にお花咲かせて来るようなところじゃないです」

急にバレッタの重みを感じかあっと顔に熱が走る。ここまで一方的に言われるとなんだか正論に聞こえてきて、全部わたしが悪い気がしてきて、何も言い返せなかった。わたしが来た方へ歩いていく彼女から目をそらせずにいると、駆け寄ってきた部員に荷物を渡し楽しげにグラウンドに入っていくのが見えた。しばらく立ち尽くしていたところふっと意識が戻り、よろよろと中庭のベンチに腰掛ける。こんなに敵意を向けられたのは生まれて初めてだった。頭のお花を力なく外せば、熱は目の奥にまで及んでいたようで視界が霞む。彼女に言われたようなことをしているつもりは全く無いのだけれど、ここまで言われて続ける度胸はなかった。ただの「彼女」が、どこまで許されるのかわからなくなった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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