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いよいよ迎えた始業式の日、勇人もめぐも朝練が無いと言うから3人で自転車通学してきた。おそるおそるクラス発表の掲示を見ると、同じパネルの中、彼の名前の何個か隣に自分の名前があった。嬉しくて思わずぎゅっと腕を掴んでしまいすぐ離す。

「よかったね、おふたりさん」
「ありがとう!だけどめぐとも一緒がよかった……」
「そうだね。まあこの1年違うクラスでもちゃんと付き合いできてるし、今後もよろしく!」
「うん!教科書借りに行くね!ジャージも忘れたらよろしくね!」
「ねえ彼氏この子なんとかして」
「ははは……がんばります」

そう言うめぐはなんと花井くんと連番だ。この奇跡に舞い上がっていたら当の本人がやって来たから、わたしと彼は彼女を置いて教室へ向かった。次に気になるのは席順だけれどまた隣どうしというわけもなく、彼は1番後ろでわたしは教壇真ん前の特等席という悲劇に笑うしかなかった。

式のあとは今年1年の委員会決めがある。担任の、誰もいなかったら去年やっていない奴を適当に指名するという軽口に恐々としていた。学級委員から始まり順々に呼ばれていくけれど、なかなか立候補の手は挙がらない。それもそのはず、委員会活動はだいたい放課後に行われるから、毎日練習があるような部活に入っている人はまず困難なのだ。野球部なんてもってのほかだ。

「はい次、文化祭実行委員。これも男女1名ずつ」

学級委員が決まらないから担任が司会進行をしている状況に、本人は文句を言っている。このままならわたしなんかいの一番に指名されるんだ。どうせやるなら、興味のあるものをやってみたい。そう思い手を挙げた。

「お、女子は深田以外にいるかー?よし決定。男子は……」
「あ、オレやりたいです」
「はい決まり。じゃあおまえら進めといて。先生は後ろで座ってます」
「マジっすか!」

他に手は挙がらず、すんなり決まったことにほっとする。ペアの男子は話したことはないけれど、リーダーシップのある人気者のようだったから進行は彼に任せ、わたしは黒板の書記をすることにした。ちらりと見えた一番後ろの彼は、なんだか冴えない顔をしていた。



▽▽▽



「文化祭実行委員、やるって決めてたの」
「う、うん……もともと興味あったし、運動部の人なんかは出られないでしょ。わたしは週2だから」
「言ってよー!そりゃあオレは無理だけどさ、びっくりしたじゃん」
「ごめんね」

帰りのホームルームが終わったあと彼がすぐにやって来た。相談も何もしていなかったから、驚くのも無理はない。でも彼だけには言えなかった。付き合い始めてからというもの、副主将として役目を果たす彼を見てずっと引け目を感じていた。わたしもこの高校生活で一度くらい、皆の役に立つことがあってもいいんじゃないかと思ったのだ。かといって他にやりたい人がいるなら身を引くつもりだったし、こんないい加減な話をするのも躊躇われた。

「……オレ心狭いから、深田が他の男と何か一緒にやるってだけで嫌なんだよ」
「ご、ごめんなさい」
「委員会だし、どうせオレにはできないし、頭ではわかってるけどやっぱり嫌だ。でも自分で決めたなら、応援する」
「うん。ありがとう」

彼を見送ってから安堵の息をつく。付き合ってみてわかったのは、勇人は人一倍強情で、心配性だ。でもわたしを大切にしてくれているということは伝わってくる。それはとても居心地が良くて、叶うならばずっとそのなかに浸っていたいと思った。

午後からは新入生の部活動見学がある。どの部活も多くの部員を獲得するため力を入れるのだ。わたしたち調理部も、胃袋から部員をつかまえようと前々から準備を進めてきた。仲間たちとクリームブリュレを焼いているころ、グラウンドでひとつの恋物語が始まろうとしていたことなど、わたしは知る由もない。

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