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友人たちはカレンダーを広げ、いちばん祝日の少なかった木曜日を「彼氏とお昼を食べる日」にしろと言ってきて、栄口も承諾してくれたから一先ずはそれをこなしている。食堂のすみっこの、野球部集団から死角になる場所を陣取って、彼が学食を持ってくるのを待っていた。

「おまたせー」
「今日はうどんにしたんだね」
「前の人が注文しててさ。食べたくなっちゃった」
「あるある」
「じゃあ、いただきます!深田のお弁当いつもおいしそうだよね。自分で作ってるの?」
「たまご焼きだけ。あとはお母さん」
「そうなんだ!焼き目綺麗、さすが調理部のエース」

いつも左隣にいた彼が向かい側にいるのもだいぶ慣れた。初めは周りの目が気になっていたけれど、あの教室に比べれば全校生徒が入り乱れる食堂の方がよっぽど楽だ。周りにもカップルと思わしき二人が何組もいるし、大人びた先輩たちを見ているとわたしたちなんて何ともない普通のことをしているだけなのだと思い知らされる。

お母さん任せだったお弁当に手を加え出したのは最近のことだ。男の子とお昼を食べるというのは思った以上に恥ずかしく、量とか彩りとか強いてはお箸の柄まで気になってくる。実を言うと今日のたまご焼きは自信作なのだ。彼に食べてもらうことになっても問題ない、と朝は思っていたけれど自分から言い出す勇気はなく、第一彼のうどんは卵でとじてあったから、コレステロール値という単語が頭をかすめ結局自分で食べた。

「ねえ、栄口って甘いのすき?」
「え、うん、すきだよ」
「じゃああげる。2個持ってきたんだ」

デザートなら軽く渡せると思って、お弁当用のバッグに潜めていた牛乳プリンを差し出すと喜んで食べてくれた。わたしも同じものを掬いながら、単純に自分の作ったものをおいしいと食べてくれるひとがいるのは嬉しかった。

「まさか深田が作ってきてくれるとは思ってなかったや」
「……次も、作ったら食べてくれる?」
「もちろん!だけど負担にならない?」
「ならないよ。栄口が喜んでくれるならわたしも嬉しいんだ」

それならたまご焼きがいい!と笑う彼に遅いよ!と返すわたしたちも、ちゃんとカップルに見えているのだろうか。

「冬休みは練習あるの?」
「うん、今年は27日までで、年明けは4日から」
「そっか……ねえ、初詣一緒に行けないかな?」

正直に言うと、初めて彼氏と迎えるクリスマスを期待していた。雑誌の特集を読んだりイルミネーションが始まった駅前を通るたびに心弾ませていたりしたけれど、練習があるなら仕方ない。初詣なら友だち同士でも行けるし、わたしから誘っても不自然じゃないと思って言ってみたものの彼の表情は晴れなかった。

「うーん、お正月は毎年じいちゃん家行っちゃうんだよね」
「そっか……じゃあ、めぐと行ってこようかな」

結局クリスマスは家族でケーキを食べるだけで彼とは何もなかった。念のため簡単なプレゼントを用意してはいたけれど、よく考えると約束もしていないのに押しつけがましい気がしてお父さんにあげてしまった。わたしだって、彼からきてくれるなら返せる。でもあんなに押せ押せだったのに最近は乗り気ではない気がしてわたしも引いてしまうのだ。冬休み中の接点といえば定型文の「あけおめメール」に一言加えるくらいで、そんな付き合いに物足りなさを感じるくらいには、ちゃんと、惹かれていたのだ。

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