14

おいしいとこだけ持ってくあいつが、気に入らない。それが無意識だってことが何より一番気に入らない。言ってしまえば水谷と彼女を引き合わせたのはオレで、彼女に気持ちを自覚させたのもオレだ。我ながら目を覆いたくなるくらいの役回りだと思う。水谷は何も気づかないまま、オレの大事なものを奪っていくんだ。その気がないなら、ちょっとでも同情してくれるなら、話しかけないでほしい。笑いかけないでほしい。もう一切関わらないでほしい。表向きは彼女に協力する振りをしているけれど、腹の中ではこんなことしか考えちゃいないんだ。

こんな私怨が渦巻いていたからなのか、球技大会の7組との試合はあっけなく負けた。個人戦で敵わないならチーム戦くらい配慮してくれてもいいんじゃない神様。救護所から見ていた彼女は喜んでいるのか、それとも、なんて考えるより明らかで、クラスメートに呼ばれる振りをして、オレはグラウンドを後にした。

そのまま彼女とは特に身のある会話をすることもなく、4回戦がやってきた。3回戦は平日で親しか見に来ていなかったから、応援団がまた集まってくれたのはそれだけで感極まるものだった。そして今日はその一番前に、オレたちと同じ色を身に付けた女の子たちがいた。

「ええっチアいる!」
「うっそお!ほんとだ!わー!」
「誰だろ?あ、友井と小川……?」
「水谷知ってんの?」
「同じクラスだからね。ダンス部だしなーそっかー」
「あとひとりは?」
「……深田だ」

端っこでひとり、ジャージをかぶりうずくまる女の子。ふたりに説得されようやく観念したように立ち上がったその子は、まぎれもなく彼女だった。オレがその名前をつぶやくと、一斉に視線が集まった。

「えっ?!なんで?!栄口聞いてた?」
「……いや」
「あー、そういえばオレ球技大会のとき、チアいたら嬉しい?って聞かれたな」
「で、なんて?」
「え、普通に嬉しいよって言ったけど。そりゃそーでしょ!」

また、水谷だ。

挨拶のときも仲良く話すふたりをそばに、何もできなかった。それでも聞き耳を立てることだけは忘れない。深田は、水谷のために来たんだ。野球部じゃなくて、水谷のため。嬉しそうな彼女の顔が目に焼きつく。そのままの笑顔でオレにも言葉をかけてくれたけれど、なんだかついでのようにしか感じられなくて、ついついふてくされていた。



▽▽▽



「ねーねー、その下って何か履いてんの?」
「きゃあああ!」
「おいこらおめー訴えられんぞ!」

試合後会場の外でぼうっと彼女を眺めていたら、後ろから唐突にやってきた田島にスカートをめくられているところをうっかり目撃してしまった。多分見られてもいいものを履いてるんだろうけど、いけないものを見た気分だ。無防備で、隙があって、放っておけない。桐青戦のときも濡れて下着が透けるようなセーラー服で過ごしていたのにと思うと頭を抱えたくなる。

「ねー深田写真撮ろうよ!もうしないから」
「やだ!」
「だってオレチアすきだし!あっオカズとかにはしない……よ?」
「疑問形にすんな!って、もう、そういうレベルじゃ……」
「……最低!」

ついに泉の鉄拳が落ちた。それを尻目に彼女は木陰に置いてあるかばんへと走り、ジャージを履いた。別に、脱いでるわけじゃないから、いいよ、ね。でも、前かがみになってスカート丈が上がるとことか、恥ずかしそうに周りを気にしてるとことか、ちょっとそそるかもしれない。念のため誤解を解いておくと目で追っているのではなく、視界に入ってしまうだけだ。人混みの向こうに見えるだけだから、その顔やめてよ巣山。

「……気持ちはわかるよ」
「うっ……」

ずっと、眺めてたから。水谷とツーショット撮ってたのも、そのあとチアの子たちとはしゃいでたのも知ってる。いよいよオレの失恋が現実的になってきた。負け試合に挑むくらいなら、いいお友だちでいたいんだ。だからなおさらこういう目で見ちゃだめだ。わかってるけど、危なっかしくて見過ごせない。

「着た」と「来た」はわざとです

<<< top >>>

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -