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会場のお手洗いでお揃いの衣装に着替えた。今開けたばかりの日焼け止めの重さが、露出度の高さを物語っていた。一度入場する前にジャージを脱いだけれどやっぱり照れくさくて、応援席の端っこで駄々をこねてみる。グラウンドを見やると野球部がこちらに向かってきていて、わたしはそれを一番前で迎えることができた。特等席だ。フェンス越しの彼らはなんだか別の世界にいるようだった。挨拶を終えたあと目的のあいつは、冷やかし半分に微笑みながらわたしに声をかけてきた。

「深田!びっくりしたよもー」
「う、うん」
「何さ、やっぱりやるんじゃん」
「いっ、いいでしょ!わたし水谷のために着たんだから、ちゃんといいとこ見せてよね!」
「あはは、それはがんばらないとなー!」

こんな格好までしたんだ。これくらい言ってやらないと割に合わない。冷静になってみると我ながら告白にしか聞こえない台詞だったけれど、多分あいつは、なんにも、思ってない。

手作りのポンポンが空に舞い、少しいびつなスカートが揺れる。わたしは、この風景に溶け込めてるのかな。ふたりのスパルタ特訓のおかげでなんとか形になったとは思うけれど、彼のときだけ余計にがんばっちゃうのは秘密だ。今日もナイバッチって、いっぱい言えますように。



▽▽▽



「あー!応援団と写真撮る!」
「オレもオレも!チアいると華やかでいいなあ」
「あっ写真?わたし撮るよ」
「えー、深田はオレのとなり!ゲンミツに!」

危なげもなく勝利した部員たちは晴れやかな笑顔をカメラに向けてくれた。水谷と、ふたりで写りたいな。そんな思いは、断られたらという懸念と衣装の気恥ずかしさに巻かれて消えた。

「ねえ、ツーショット撮ったげる」
「え?!」
「水谷くーんこっち向いてー」
「なに?」
「並んで並んで!はい、チーズ」
「お、深田と?いーじゃんこれあとで送って!」
「う、うん!」
「あ、その衣装似合ってんよー!次もよろしく!」

一瞬で過ぎさったまるで夢のような時間は、確かに画面の向こうに残っていた。友井さんは他のひとたちも連写のように撮っていたから、不自然に思われることもなかっただろう。不意打ちの表情に不満がないわけじゃないけれど、不器用は若者の特権なのだ。「次もよろしく!」その言葉だけでわたしは十分報われた。

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