十二月半ば、深夜零時半。
季節はいつの間にか秋から冬に移ろいでいて、吐く息は白い。

「あ、オリオン座」
「おーい前見て歩けよ、こけんぞ」

大きな通りから外れて少し行くと、街の光は届かなくなって、街灯も少なくなる。空気が澄んでいるのと、人工的な光が邪魔をしないのとで、星がよく見えた。小学生の頃からろくに勉強していなかったわたしが、いま見つけることが出来る星座はオリオン座ぐらいなのだけど。

それにしても、夜空なんて見上げたのは随分と久しぶりだった。星座ひとつ覚えていたことだけでも褒めて欲しいくらいに。一人で歩いているなら上を向いてふらふら歩くなんてきっと出来やしない。洋平と一緒に歩いているからこそ、わたしは安心して星を眺めながらふらふらと歩くことが出来るのだろう。上に向けていた顔を正面の位置に戻して、立ち止まる。少し先で立ち止まり、呆れた顔でこちらを見る人間が一人見える。

「洋平、オリオン座すらわかんないでしょ」
「喧嘩売ってんのか」
「真ん中に星がみっつ並んでるやつね」
「あーはいはい」

適当な相づちのあとに数メートル前方で手のひらが差し出されたけど、それを無視してもう一度上を向く。暗闇に目が慣れたせいか、さっきよりもたくさんの星が見える気がする。上を向いたままもう一度歩き出す。溜め息がひとつ聞こえた気もしたけど、足音はしないから、わたしは笑い出しそうになる。ふらりふらりと少し歩いたところで、右手にぬくもりが触れた。やっと正面を向いて、また立ち止まる。洋平は、白い息を吐いてから「さみぃから早く帰んぞ」と笑った。

「転ばないように手え繋いでてあげるから洋平も星見なよ」
「そりゃどーも」
「オリオン座わかる?」
「わかるっつの、おまえ北極星わかる?」
「いや・・・」
「俺の勝ちだな」
「・・・ヤンキーは夜遊びが多いからね、詳しいんでしょ」
「てめーな」

繋いでいた手が離れて洋平の左手がわたしの頭を後ろからがしりと掴んだ。このままだと痛い思いをする上に右手が妙に寂しく寒いので、素直に謝ることにする。「すみません」と「もう言いません」を交互に3回ずつくらい言うと彼の左手はわたしの頭から左手に戻って来てくれた。

「寒いからさっさと帰ろっか」
「さっきからそう言ってんじゃねえか」

つま先を眺めながら自分の部屋を頭の中に思い浮かべた。理科の教科書はもう捨ててしまったっけ。もしかしたらまだどこかに残っているかもしれない。オリオン座と、北極星、それ以外の洋平が知らなさそうな星座を覚えることをそっとこころに決めて、もう一度だけ夜空を見上げた。

<071216>

8mm hacca
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