「くりすますを知っているか?」

ごろりと寝返りをうった鉢屋先輩がにんまりと笑う。わたしは口に運ぼうとしていたお団子を止めて、庄左ヱ門と彦四郎は取り組んでいた宿題から顔を上げた。尾浜先輩は目をぱちくりとさせている。

「なんか聞いたことあるな」
「南蛮のものですよね、確か」

図書室で読んだ本に書いてあった気がする、と記憶を探る。きりすととやらがどうとかさんたくろーすがどうだとか。尾浜先輩に続いて言うと、鉢屋先輩は「なんだ、お前達は知っているのか」とつまらなそうな顔をした。そんな顔されましても、と思いつつお団子を口に運ぶ。尾浜先輩はあられをぱくついている。

「庄左ヱ門と彦四郎は知っているか?」

矛先は一年生二人に向く。二人は鉢屋先輩に期待たっぷりの表情を向けられると、互いに顔を合わせたあと「しらないです」と首を横に振った。鉢屋先輩は目をきらりと光らせてくりすますについて二人に説明を始める。長い話になりそうだな、と急須に湯を注ぐと尾浜先輩が「俺にもー」と湯のみを差し出してきた。今度は饅頭を食べ始めている。どんだけ食べるんですかあんたは。

「くりすますには良い子のところにさんたくろーすという白髪の翁がやってきて贈り物をくれるらしい」
「贈り物とは?」
「菓子でも本でも、子供が喜ぶものをくれるそうだ」
「へー!」
「二人は賢くて良い子だからきっとさんたくろーすがやって来るだろうな」

得意げにそう言い切って鉢屋先輩はあられを口に放り込む。庄左ヱ門と彦四郎は「それは楽しみですね」とうれしそうに笑って饅頭に手を伸ばした。


「良かったんですか?あんな嘘をついて」

一年生二人が長屋に帰ったあと、鉢屋先輩に尋ねる。くりすますもさんたくろーすも南蛮の文化でこの国のものではない。いくらあの二人が良い子でもさんたくろーすが贈り物を持ってやって来ることはないのだ。

「嘘なんかじゃないさ」
「さんたくろーすがわざわざ南蛮からやって来るって言うんですか?」
「いいや、私達がさんたくろーすになるんだ」
「わたし達が?」
「あ、そういうこと」

わたしを置いてきぼりに先に納得してしまった尾浜先輩が「そりゃあいい」と笑う。

「どういうことです?」
「私達が二人にこっそり贈り物をすれば良い」
「・・・ああ、なるほど。でもなんでまた」
「二人の驚く顔が見たい」
「はあ、そうですか」

楽しそうに言う鉢屋先輩に呆れながらもその気持ちが理解できない訳ではないので作戦に協力してしまうだろう、きっと。二人の驚いて笑う顔を想像すると頬が緩んだ。





次の日、お昼に食堂へ向かう途中見慣れたふたつの後ろ姿を見つけた。昨日下された使命を思い出して声をかける。

「庄左ヱ門、彦四郎」
「あ、先輩こんにちは」
「こんにちはー」

二人が欲しいがっているものを聞いてくる。それがわたしの任務である。まあそのまま聞けば良いだけの話なので早速、と思ったところで庄左ヱ門が先に話し出した。

「先輩、昨日のことで鉢屋先輩になにか迷惑をかけられてはいないですか」
「え、昨日?迷惑?」
「さんたくろーすの話です」
「大方、僕たちに贈り物をして驚かせようってところでしょう」

庄左ヱ門に続いて話だした彦四郎の言葉に、わたし一人の時だけが止まる。

「わ、わかってたの?」

わたしの驚いた顔を見てふたりは顔を合わせて困ったように笑った。

「ああでも言っておかないと鉢屋先輩が拗ねて面倒くさそうなので」
「嘘も方便って言いますし。すみません」

さてどうしたものかと頭を抱えてため息を吐く。昨日の鉢屋先輩の楽しそうに笑う顔を思い出すとこの事実をそのままお伝えすることは出来ない。となると、わたしも嘘を突き通すしか術はない。

「二人ともお願いがあるんだけど」

このままその嘘つき通してもらって良い?そう言うと二人はとびきりの笑顔で「はい!」と答えた。

<111202>
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