「あなたがうわさのちょっとこなもんさんですか」
「おや、初めて見る顔だ」

ぐるぐる巻きの包帯に黒い忍び装束。伊作先輩を始め保健委員のみんなが言っていた人だ、間違いなく。なぜ学園の医務室に。

「君も保健委員かい」
「秘密です。あっ怪我をしてるんですねちょっと待ってください」
「保健委員だね」

見れば腕の包帯が破れて少し赤く染まっていた。怪我をしたから医務室に来ていたのか、と納得して薬や包帯を用意する。包帯は取り替えるべきなのだろうか、それとも包帯の上からさらに包帯を巻いたら良いのだろうか。

「ここの子達は忍者に向いていない子が多いねえ、本当に」
「失礼ですね、よく言われますけど」

見上げた顔はほとんど包帯に隠れているけれど、笑っているのがわかった。

「烏なんかにはならないで欲しいものだよ」

小さくつぶやいたこなもんさんを訝しげに思って首を傾げる。頭をぽん、となでる手は温かい。

「忍者とかくのいちになろうとしてるんですよ、なんですかカラスって」
「いいや、なんでもないよ」

数年後、その意味を理解したわたしが暗闇の中で思い出す雑渡さんの顔はひどく寂しい笑顔だ。

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