「無茶をするなとは言わないけどね」

くるりくるり、白い包帯が腕に巻かれていく。その動きは滞ることなく無駄がなく、この人がどれだけたくさんの人々の手当てをしてきたかを物語っている。さすが不運委員会、もとい、保健委員会委員長。時折、善法寺先輩が不在の時は保健委員の下級生が丁寧に、たまに文句を垂れながら手当てをしてくれるのだけれど、包帯が解けやすかったりとどうにも難があった。やはり何事も経験がものをいうのだろう、善法寺先輩に手当してもらうとそういったことは一切なかった。しょっちゅうお世話になっているわたしが言うのだ、間違いない。

「君のは無茶ではなくて、死に急いでいるように見える時があるよ」

その言葉に顔を上げたけれど、互いの視線が交わることはない。

「そんな風に見えますか、わたしは」

聞くと善法寺先輩は顔を上げることなく、「時々ね」と答えた。

包帯はもう巻き終わっているけれど、善法寺先輩の手はわたしの腕を離してくれない。白い左腕を見つめるその顔は、怒っているようにも悲しんでいるようにも、はたまた微笑んでいるようにも思えた。
そんなつもりでいる訳ではないと、否定の言葉を口にしようとしてけれどもやめてしまったのは、そう見えてしまっているのならばそれで構わないと思ったからで。任務の遂行やまわりの命、それに対して自分を天秤にかけた時、重く沈むのは前者であって、その結果がどんなことであってもそれは仕方のないことと思えてしまう。

「そうだとしてもそうじゃないにしても、僕がどうこう言えたことではないのだろうけどね」

その声は穏やかで、怒っている訳でも悲しんでいる訳でもないのだとわかった。

「もう少し、自分を大事にしてくれるといいなとは思っているよ」

はいおしまい。まじないのように包帯の腕をするりと撫でると、善法寺先輩は立ち上がって、包帯や薬瓶を片付け始めた。その言葉はとくにわたしの心に響くこともなく沁み入ることもなく。けれどわたしの中のどこかに放り込まれたその言葉が、いつかわたしの枷となり、わたしを救う日が来るのだろうか。わたしはそれが、おそろしい。見上げた善法寺先輩の顔は優しく笑っていた。目を伏せたのは、差し込む夕日のせいではない。

<130112>
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