「ねえ左近」

西に向かって帰路を進むわたしたちの前では大きな夕日が沈んで行く途中だ。逆行で左近の表情はよく見えないけれど、不機嫌そうな顔をしているに違いなかった。その割には呼びかければ毎度律儀にこちらを振り返り、わたしが喋りだすのを待ってくれる。彼の眉間にあるであろう皺をぐりぐりとしたくなるのをぐっと堪えて、わたしはどうでも良い話をぽつりぽつりと紡ぐ。

「今日の晩ご飯カレーだって」
「ふーん」
「何カレーだろうねえ」
「・・・・・」
「わたしチキンカレーがいいなあ」

左近が返事をしようがしまいがわたしには関係がなく、思いつくまま話をする。

「ねえ左近」
「ん」
「今度薬草の勉強いっしょにやろう、得意でしょ」
「・・・面倒くさい」
「ケチ、面倒くさがり、不運」
「不運関係ないだろ」

仕方ない、そのうちな。そう言いながらわりとすぐにやってくれることを知っている。そう言っている時の顔が満更でもなさそうなことも知っている。

「ねえ左近」
「今度はなんだよ」
「左近はさあ」

わたしのことすきなの?
言おうとするけど、やっぱりやめておく。もう少し、今ぐらいの距離感で良いかなあと思う。

「僕がなに」
「やっぱなんでもない」

無理矢理その場を流して、左近の手をとった。左近は頬を真っ赤に染めて、嬉しそうな切なそうな顔をする。見なくたってわかっている。そんなことを考えてるわたしの顔だって真っ赤であることに、左近が気付いていることだってわかっている。
わたしたちはいつまでこんな関係を続けるのだろうと心の中で苦笑いをするけれど、しようと思えば出来る告白をいつも先延ばしにしているあたり、わたしはこの片思いごっこが楽しくて仕方がないのだ。左近の手にぐっと力が入ったのと同時に、わたしの胸の奥がぎゅっとなって、嬉しくって視界が少し滲んだ。

<120110>
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