雨が降り出したのはちょうど3限が終わりかけている頃だった。なんとなく外が暗いとは思っていたけれど、その原因が雨だと気付いたのは、後ろの席で寝ていた筈の名字が「げぇ、」と小さく漏らしたからだった。

「やばいよ泉、わたし傘持ってきてない」
「うわ、雨降り出したか」
「泉、わたし傘持ってきてない」
「それは知らねえよ、どうでもいい」
「えー、なんか、どんどん強くなってんだけど」
「つーか今日降水確率0%っつってたのにな」
「ほんと当てになんないねー」

地面に水たまりが出来ていくのを眺めているうちにチャイムは鳴り、授業をしていた教師も出て行った。教室はざわざわと騒がしくなる。外の様子を眺めて溜め息 を吐いたり、部活がなくなる!と喜んでいたり、クラス内の反応は様々。だけどこの教室の隅っこにいる俺と名字は、二人そろって溜め息を吐いていた。

「放課後までに止まないかなあ、これ」
「どーだろ、すげえ降ってるし」
「泉は嬉しいんじゃないの?練習なくなって」
「なくなんねーよ、室内で筋トレ。外で練習の方がよっぽど楽しいっつの」
「ほー、そういうもん」

感心する名字に、「そういうもんだよ」と答えながら、俺の耳は一際やかましい声をキャッチした。「げー!すげー雨降ってんじゃん、これじゃ練習出来ねー!」というその声がこちらに近づいてくる。近づくにつれおどおどと途切れがちな声も聞こえてきた。

「なあなあ泉、練習どうなるかな」
「おー、雨止んだら微妙だけど止まなかったら確実に室内だな」
「外で練習してえなー、なあ三橋!」

心底雨を嫌う田島と「おっおれも、外でっ」とどもりながらもそれに同意する三橋を見て、名字はさらに感心した様子で「野球部すごいなー」と少し笑った。それから一瞬何かを考える素振りをしたあと、自分の机の中を覗きながら「いいこと思いついた!」と口にした。

「とりあえずてるてる坊主でも作ってみない?」

そう言って名字取り出したのは綺麗なままだったり少しくしゃくしゃになっていたりする大量のプリントだった。

「お、いいな!作る作る!」
「雨止まないとわたし帰れないしね、ほら泉と三橋くんも」
「つーかお前それ今度提出するプリントだぞ」
「あー、もういいや、知らない」

確か来週の数学の授業に提出しなくてはいけないそのプリントは名字の手によってぐしゃぐしゃに丸められた。田島と三橋も名字に倣い作り始めたので、仕方 なく俺も散らばったプリントを一枚手にとる。赤い文字で書かれた数字が見えたのでよく見ると、それはこの間の中間考査の数学のテストだった。

「おー、19点。なかなかひどいな」
「ちょっと!何見てんの」
「19点!?勝った!」
「おっ、れも、勝ってる、!」
「俺も余裕で勝ってる」
「なにこれいじめ!?かっこわるい!」

ぎゃあぎゃあと騒いでいるうちに浜田も加わり、10分休みの間に結構な数のてるてる坊主が完成した。それを窓の枠に逆さまにならないように上手いこと吊る す。(主に浜田が)本当に雨が止むかどうかは知らないけれど、これだけあれば午後にはすっきり晴れそうな気がしないでもない。



「ちょっと、なんで19点見えてんの」
「こんだけひどい点数見たら空も大爆笑だって」
「上手くない!寒い!」

<070927>
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -