「あなたもわたしも?」

朝練を終えていつも通りに教室に向かって、後ろの扉から入ってすぐの廊下側一番後ろの自分の席にカバンをおろした。今日の一限なんだっけ?ああ現国か、眠くなりそうだな、なんて考えていたら、左側から聞こえてきたのが冒頭の言葉である。視線を向けると、隣の席の名字がなにかを差し出してこちらを見つめていた。

「おお、はよっす」
「あなたもわたしもー?」

ずい、とさらにこちらに差し出されたものは白い縦長の袋だった。袋の形と開けられた封から見える中身、そして机に置かれている赤い箱のパッケージで、それがポッキーであることはすぐにわかったけれど、名字の行動の意図がわからずに首を傾げる。

「え、何?くれんの?」

そう聞くと名字はわざとらしく大きなため息を吐いて、「ノリの悪い巣山にはあげないよ」と一人でポッキーを食べ始めた。朝っぱらから挨拶もなしに意味の分からない言葉を投げかけておいて人のことをノリが悪いなどと言い放ちさらには勝手にふてくされる、女という生き物はよくわからない。その上、次の瞬間にはさっきのことなどなかったかのように、「あっ、そういや昨日借りた漫画面白かった!」と笑顔でこちらを振り向くのだから本当に意味がわからない。今の顔はちょっとかわいかったとか思ってしまった自分の思考も理解に苦しむ。

「おー、じゃあ来週続き持ってきてやんよ」
「やったー、そんな巣山にポッキーをあげよう」
「結局くれんのかよ」

再び差し出された袋に手を伸ばしてポッキーを一本抜き取る。さっきの行動の意図は一体なんだったのだろうと問いかけようとしたところに、背後の扉が開いて「はよーっす」と聞き覚えのある声がした。

「あなたもわたしも?」

案の定、名字は栄口に対しても、先ほどと同じ言葉を投げかけてポッキーを差し出す。この意味不明な言動に、果たして栄口はどう切り返すのだろうと、その動向を見守っていると、栄口は一瞬戸惑った表情を見せたあと、ポッキーを一本抜き取って「ポッキー?」と言いながらパキリ、と音を立ててそれを食べた。その途端、名字は「どうだ!」とでも言いたげな笑顔ででこちらを振り返る。よくわからないけどすごく腹立たしい。

「さっすが栄口、さらに3本食べて良し」
「朝っぱらからよくわかんないけどありがとう?」
「さっきからなんなのお前」

言われた通り素直に3本ポッキーを貰っている栄口を横目に、名字に改めて問いかける。

「何年か前のCMだよね、あなたもわたしもポッキー、って」
「あー・・・そんなんあった気ィすんな」

名字より先に返ってきた栄口の言葉に記憶を探る。確かに妙に頭に残るフレーズのCMだった。

「けどなんでいきなり・・・」
「え、ポッキーの日」
「ポッキーの日?」

名字の言葉に黒板の右端に記されている今日の日付を確認する。11月9日金曜日 日直 田中・寺島。

「まだだろ、明後日じゃねーか」
「明後日休みなんだもん、日曜日」
「ああ、それで今日ポッキー食べてんのか」

それがまるで正統な理由であるかのように答える名字にも、その答えで納得している栄口にも呆れて顔を顰める。

「別に家で食えばいいじゃん」

至極正論を言ったつもりが名字は「わかってないなあ」と肩を落とす。

「それじゃあ面白みがないんだよ、ねー栄口」
「まあわからなくはないかな」

ははは、と笑う栄口に最後の一本であったらしいポッキーを差し出した後、名字は机の上に置かれた箱から新しい包装を取り出して封を開けた。朝からどんだけ食うつもりだこいつは。

「みんなで食べるから楽しいんだよ」

にっと笑ってこちらにポッキーを差し出して、名字は懲りずに「あなたもわたしも?」とこちらに言葉を投げかける。うんざりとして栄口の方を見やると、くくく、と笑われたあとに「乗ってあげたら?」と言われてしまった。ため息をひとつ吐いて仕方なくポッキーを受け取る。

「あなたもわたしも!」
「ポッキー・・・」

<121111>
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