「あ、」
「あ?」

懐かしい人と出くわした。
高校を卒業して、実家を離れた。一人暮らしは気楽だけど、やっぱりどこか寂しくて、長い休みには毎回帰って来てしまう。今年の夏も、そう。
そうしたら、偶然再会したのだ、泉と。コンビニのお酒コーナーで。

「うわ、久しぶりだな」
「あは、久しぶり。そういえば近かったね、家」

かすれてしまっていた記憶が蘇った。そういえば、高校生の時は隣のジュースコーナーでよく会った。たった1メートルほど位置の移動が、時の流れを物語る。いつの間にか、ビールをおいしいと思える歳になってしまった。

思い思いにビールと適当なつまみを買って、コンビニを出る頃には近くの公園で再会を祝って乾杯することが決定していた。泉の自転車の荷台に乗って、夜道をかける。
埼玉の夜は暑い。纏わりつく湿気に鬱陶しさを感じながら、夜空を仰いだ。じわりと滲む汗は、愉快なものでは決して無い。


「泉ってまだ実家だっけ?」
「おー。お前こそどうなの、一人暮らし」

ぜってー部屋汚いだろ、などとぬかしたので、渡そうとしていたビールを軽く数回振ってやった。図星ゆえに余計に腹が立つ。

「うわっ相変らず最悪だなお前…」
「相変らずはお互い様だって、」

笑いながらプルタブを引く。泉のビールからはは少し大きめの、プシュ、という音が聞こえただけだった。

「はいカンパーイ」
「カンパーイ」

自転車をこいだせいか、泉は相当喉が渇いていたらしく、ぐびぐびと喉を鳴らした。

「おー、いい飲みっぷり」
「動いたあとのビールはうまいわー」
「おっさんくさい」
「うっせ」

本当に、わたしたちは大人になっていってしまうのだ。子供としてのきらきらとした光はどんどんかすれてゆく。それを悲しいと思う感情すら、失くしてしまいそうだ。

「泉、まだ野球やってんの?」
「ん、やってる、大学で」
「そっか、楽しい?」
「楽しいよ、それなりに」

ふと、高校時代の泉を思い出した。西浦のユニフォームを着て走る姿。一番バッターで、足が速くて。今も彼がそうやって野球をしていて嬉しいと思う反面、少しだけ、胸が痛んだ。未だ過去に囚われて、前に進んでいるようでだけど本当はずっと、あの日々から動けないでいるのは、わたしだけなのかもしれない。


「でもなー、」

ぽつりと泉が呟いてそちらに目を向けた。高校の時にはかなわねえかな。そう言った泉の顔は、高校の時にはまるで見た事のなかった表情をしていた。「うん、やっぱ高校程ではない」

その言葉はわたしの心に安堵をもたらしたけれど、先ほど以上の痛みをももたらす。いつだって、後戻りなんて出来ない。泉もきっとそれを分かってる。分かった上で、彼は今も白い球を追いかけてる。けれどきっとその姿は高校の時と大して変わらず、わたしの心をちりちりと燃やすのだろう。最後の一口、ビールを飲み干す。

「夏休みの間にさ、なんか試合とかある?」
「ん?練習試合とかならあるけど」
「じゃあ見に行くよ」
「なんでまたいきなり…」
「泉の体力がどれだけ衰えているかを嘲笑いに、」
「日程とか絶対教えないからな」

嘘だって、ちゃんと応援しに行くよ。そう言うと泉はそりゃどーも、と呟いてビールの缶をベコリと潰した。そのあと口にした日にちを頭にきちんと入れる。家に帰ったらカレンダーに印をつけなくては。

変わっていくものの中で浮き彫りになる、変わらないものをこの目できちんと確かめたかった。確かめてどうする訳でもなく、前に進めるわけでもないかも知れないけれど、きっとそれは熱く、わたしの心をちりちりと焦がすのだろう。


Cerulean Blue

<080929>

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