もうすぐで年が明ける。歩く真夜中の道はいつも通り静まり返っていて、けれどどこかやわらかくふわふわとして感じるのは、やっぱりわたしの浮かれた気持ちのせいなのかだろうか。角を曲がって見えた、明るい光を放つコンビニに向かって歩く速度を上げる。

待ち合わせ場所はわたしの家から最寄りの、歩いて五分ほどのところにあるコンビニだった。泉とわたし、お互いの家のちょうど中間あたりにあるコンビニが神社にも近く、そこでの待ち合わせで良いと言ったのに、泉は頑なに譲らなかった。その時のことを思い出してはくすぐったい気持ちになる。少し前の友達の関係のままだったら、多分こうはならなかったんじゃないだろうか。

「おまたせ」
「おー」

わたしが来るタイミングをはかったのか、ちょうどコンビニから出てきた泉と合流して、神社に向かう。並んで歩き出してから少しして、思い出したようなそぶりで泉がこちらに左手を差し出す。まだ、そういう彼氏彼女の関係らしい仕草がお互いに照れ臭い。どうにも不自然だ。そういうわけで、泉の手をとるわたしの態度も「どうも」と言うだけで可愛げがなかった。それでも繋いだ手の温かさと、自分のものよりも大きくがさついた手の感触に顔がにやける。隣を歩く泉に気がつかれないように、マフラーに顔を埋めた。

「テレビなに見てた?」
「ガキ使見てた」
「おー、やっぱそっちだよな」
「紅白もちょっと気にはなったんだけどね」
「なんかふなっしーが暴れてるとこだけ見たな」
「ふはは、ふなっしー!」

喋るたびに白い息が浮かんでは消えていく。見上げる横顔は、出会った春より引き締まって少し大人っぽくなっているような気がした。ちょっと前まではもっと、こう言ったらきっと泉は怒るだろうけれど、かわいい感じだったと思う。別にかわいくなくなったとか、そういう意味ではなくて。かっこいい、というか、好きな顔だなあと思う。正面から見つめるなんて恥ずかしくて出来やしないけれど、横顔ならしばらくその顔を堪能できる、なんて油断していたら「つーかさ、」と泉の顔がこちらに向いた。

「・・・なに?」
「な、なにも。泉こそ何?」

言葉の続きを促すと、泉は少しだけ困った顔をして「いや、えーっと」と珍しく言葉を詰まらせた。

「あー、家出るとき、大丈夫だったかなと思って」
「家出るとき?」
「いや、いくら初詣っつっても夜中だし、家の人とかになんか言われたりしてねえかなとか思って」

泉が居心地悪そうに空いた右手で鼻のあたりをこする。

「あー、わたしんちそういうの結構ゆるいから」
「そっか」
「・・・まあ、なにも言われなかったわけではないんだけど」

わたしがそう付け加えると、繋いでいる泉の左手がぴくりと動いた。そんな心配をしてくれているだなんて思ってもみなかった。嬉しいような申し訳ないような、でもやっぱり嬉しい気持ちが上回る。

「彼氏と初詣行くって言ったら超笑顔で送り出された」

そう言って泉の顔を見上げる。自分で言った「彼氏」という言葉が照れ臭くて、それをごまかすように笑うと、しばらく面喰らった顔をしていた泉も、照れたように笑い出した。

「そんなら良かったよ」
「意外と心配性だなあ」
「うるせ」
「あっ、ちょっと待ってもしかして」

ふと気がついて、コートのポケットから携帯を取り出す。画面を確認すると、そこには「01/01 00:01」と表示されていた。

「日付変わってる」
「あ、マジで?」
「あけましておめでとうございまーす」
「おー、今年もよろしく」

なんか締まりねえな、と泉が苦笑いをする。確かに、せっかく一緒に新年を迎えられるというのに、なんかもっと他になかったのかとは思うけれど、きっと今のわたし達にはこれぐらいがちょうど良くて心地良い。

「今年はより一層よろしく、だね」
「ん?」
「より、いっそう」

一拍置いて、泉は「そーだな」と一言だけ返事をした。繋いだ手の力が少しだけ強くなったから、言葉の真意は多分、きちんと伝わっているはずだ。それが嬉しくて笑うけれど、やっぱり泉に気が付かれないようにマフラーに顔を埋めた。来年の今ごろには、こういう時に素直に嬉しいと伝えられるようになっていたいと、心の中でひそかに目標を立ててみる。今は繋いだ手を握り返すのが精一杯だ。そんなことを考えながら、繋いだ右手に強く力を込めた。

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テーマ「人外ファンタジー」
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