その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?
考えていた、妻が死んでからどれくらいの月日が流れたのだろうか、と。今の生活に埋もれていたから……忘れてしまっていた。
「ああ……そろそろ命日だな。」
カレンダーを見ると丁度命日の一週間前、これは何かの暗示なのかと思った。
「結婚式、懐かしいな……。」
財布に入れていた写真を眺めると昔の幸せな記憶が鮮明に蘇る。妻と娘と過ごした日々は最高だった。
「何見てるんです?」
「おわぁ!」
すると後ろから覗きこむようにいきなりバーナビーが現れ、驚きで声をあげると彼はそんなに驚かなくても、と眉をひそめながら言った。
「で、これは? 奥さん……と娘さん?」
綺麗な方ですねとバーナビーは呟く、それに虎徹は驚いた。彼のことだから嫉妬でむすっとでもするとばかりに思っていたから。
「……嫉妬しないの?」
「してほしいんですか?」
現在付き合っているのは彼であるから、昔の妻の写真を見ていたりすれば普通は嫌になるものだ。
「い、いや! そうじゃねぇ! ……ただ、嫌じゃねぇの?」
「別に、嫌じゃありませんけど……まあちょっと複雑なくらいで。」
唇を尖らせそっぽを向く彼に何故か嬉しい気持ちが湧く。
「なんだしっかり嫉妬してくれてんじゃん、おじさんちょっと嬉しい。」
「はぁ、」
バーナビーの腕に自らの腕を絡ませニッと笑うとバーナビーは溜め息とともに眼鏡をくいっと上げた。
「んだよ! 溜め息つくな!」
「はいはい、ってか奥さん命日近いんですよね?」
「ん、あぁ……まあな、」
虎徹の怒りは上手く受け流され、他の話題をふられた。扱い慣れているのはコンビになって暫く経ったからだろう。
「……お墓参り、僕にも行かせてくれませんか?」
「あ?」
口をぽかんと開けた虎徹に唐突すぎたか、とバーナビーは自分の言動に悔いた。もうちょっとこう、上手く……と考えていたら。
「そうだな、バニーちゃんにも来てもらいたい。」
「え?」
まさかの応えに今度はバーナビーが驚いた。そしてやわらかく微笑み、嬉しそうな虎徹に目を奪われる。
「俺の新しいパートナー、だからな……紹介したい。きっとアイツは喜んでくれる。」
組まれた腕、そこからそっと虎徹はバーナビーの手を握った。
「俺の、一生のパートナーだってのろけてやろうぜ?」
ニィッと歯を見せて笑う虎徹にバーナビーは酷く愛しさを感じ、力一杯抱き締めた。
「おじさん、貴方は本当可愛い人ですね……っ!」
「可愛いって、あんま嬉しくねーんだけどー?」
なんだかんだ言いながらも抱き締めかえしてくれる虎徹にバーナビーはこの人を愛して良かったと心から思った。
「好きです、虎徹さん。」
「知ってらぁ。」
肩越しにケラケラと笑う虎徹に嫉妬とか複雑な思いとか、そんなもの全てがどうでもよくなった。
(虎徹を好きになってくれてありがとう)
そんな声が聞こえた気がした。
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