読める展開だからこそ










街中の視線が気になる。
これは所謂罰ゲームと言う名目なら実に一番利く方法だと思うが、これは罰ゲームなどではない。
命がかかっている、といっても過言ではないのだ。
姫路と島田と霧島によって施されたメイク等は実に完璧だ。
そう、これは女子三人によるお人形遊びの延長線上なのだ。
俺は女子には紳士に接したいからそれに応じただけだ。
別にカメラを人質にとられて脅されたとかそういうことはない、断じて、ない。
まあ詳しい事情は分からないが、多分明久とか雄二絡みなのは間違いないだろう。
海で着用したものと同じく肩までのセミロングのカツラに、上は色控えめPコート。
それにショートパンツを合わせて、黒のタイツにブーツ。
まあなかなかに女子の格好とは言えど色味を抑えた地味な格好と言えよう。
しかし冬は厚着になりがちで非常に男子にとって残念になりかねないが、その救世主ショートパンツがこれまたすごく寒く、そこに関しては女子に素直に敬意を表したい。
うっすらと化粧を施されていて、それはもう自分で鏡を見るのを全力で拒絶した為どんな風になっているかわからないが。
そして指定された場所に立ち尽くすわけである。
どうやら何かのおしおきをする為の罠らしいが、何が行われようとしているかは知らない。
というか知りたくない。
多分きっと明久も雄二も男子が縮み上がるような酷い目に合うに違いないのだ。


「・・・・・・・・・」


立たされたのはこの近辺ではカップルが待ち合わせ場所によく使うと言う噴水前。
まあ確かにこの噴水は目立つし、待ち合わせにはもってこいだろう。
しかしここに何故女装で立たなければならない、と目からなんか冷たい液体が出そうな気がするが気付かないことにした。
俺だってどうせなら可愛い彼女と立ちたいものである。
その前方の木の陰にその主犯格三人がいるわけで、逃げ出せば即ばれて酷いことになるに違いない。
だからこそぴしっと背筋を出来るだけ張って、さも自分は女ですよ、別に疚しいことなんてないですよと堂々としていることに徹した。
つけられた睫が視界に入って少々鬱陶しい。
そこで不意にとんとん、と肩をたたかれる。
何事かと思って後ろと振り向くと俺より少し年上であろう男性が立っていた。
怪訝な顔をして見つめると、その男が口を開く。

「ねえ、何してるの?もしかして一人?」
「・・・・・・・・・はあ、」
「ハスキーな声が可愛いね。暇ならお茶でもどうかな。」
「・・・・・・・・・!!!!!!???」


全身に衝撃が走って、肌と言う肌がチキン状態となる。
触られた箇所からそれは伝染して、まるで電流のようだった。
そんな世間一般的に言う、「ビビッときたので結婚しちゃいました☆」みたいなそんな電波ではない、断じて。
それはそれはおぞましいものなのである。
綺麗なお姉さんにナンパされるのはそれは困るが勿論嬉しいわけで。
けれど男にナンパされても全然嬉しくないどころか気持ち悪いだけである。
そのナンパ男は自分が今ナンパしているのが同じ男であるとも知らず、べたべたと体に触ってくる。
振り払えばいいのだが、下手な動きをしてしまって前方に隠れる三人にどんな仕打ちを受けるか分からない。


「・・・・・・・・・やめてください、」


と首を横にふるふる振りつつ拒絶することが今出来る精一杯であった。
よくよく考えるとその気弱な感じが男を煽ったのかもしれない。
そのまま肩に手を回して、耳元で囁かれる。
その囁かれた内容は特に普通の言葉だったのだが、その言葉が話題に出るたびに一生物のトラウマが噴出するに違いないほど背筋がびりびりとした。


「じゃあ、行こうか。」


固まった俺にそれがオッケーの合図だと勝手に解釈したのか連れて行こうと肩を押された。
拙い、と思い足を踏ん張るが、力では到底叶いそうもない。
その時である。
男の動きが止まって、どうしたのかと男のほうを見ると後ろから今度は男が肩を掴まれていた。
その手に見覚えがあって、視線で腕を伝ってその顔を確認すると矢張り。
明久である。
ナンパされている女の子がいれば助けると言う、なんともベタでなんともお人よしな彼らしい。


「その子、僕の連れなんです。離してもらえませんか?」


とこれまたベタな助け方だった。
けれど女子がこういうシチュエーションに弱いと言うことが良く分かるほどにはなんとなくではあるが心の奥底で理解した。
困っている時に助けられるというこういう行為は、矢張り普段の数倍、格好良く見える。
今だっていつもはちゃらんぽらんにしか見えない明久が少しだけ格好良く見えて、同じ同姓なのにそう見てしまうのは女装している所為で少しだけそういう気分になっているだけだ、と信じたい。
そうに違いない。
男はすんなり俺の肩から手を離し、悪態ついて去っていった。
その男が去っていく様をぼんやりと眺めた後に、明久のほうをちらりと見ると、明久は俺を安心させるかのように微笑む。


「大丈夫?」


そう問いかけられて胸がうずくのを感じて少しだけその女々しさに爆発したくなった。
けれど矢張り女子がこういうシチュエーションに弱いのは頷ける。
現に俺も今、ぐらついているのだ。
いやきっと、この服やカツラや化粧を脱いでしまえば収まるに違いないけれど、いやそうあってもらわないと困るわけだけれど。
まあ別に今だけは許して欲しいと思うわけで。
普段はなよなよしてるへたれの癖してこういうときだけ男子男子しないでほしい。





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風水流さんから頂きました「ナンパされる康美ちゃん」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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