そう簡単に









あんなにも連日執拗に待ち伏せていた人物が来ないとなると途端に調子が狂う。
まあきっと、風邪をひいた等そういう急に何かがあった、というわけではなく、ただきっと気まぐれで行っていたその行為に飽きたのだろう。
けれど、校門にアフロディがいるかどうか確認するのがどうにも日課になってしまって、学校から帰る時にいつも彼がいた場所を凝視してしまう。
それは単なる習慣で、まあそれを確認しなくなるという習慣も早々に付いてしまうだろう。
ただその誰もいないその場所を見る度に、何とも言えない感情が湧き上がるのを薄々感じているのも事実だった。
その感情を見ないふりをして蓋をして、何事もなく帰るのが、今の俺の習慣だ。
そしてそのまま2週間ほど経ち、またその習慣は打ち砕かれることになる。
校門をくぐっていつものように感傷に浸るかというときに、久しぶりにその金髪を目にすることになる。


「おまえ…っ!」
「やあ、風丸くん。」


思わず少しだけ慌てたような声が出てしまう。
もう来ないだろうと思っていた人物が目の前に立っていたからである。
そしてなんの変わりもなく、やあ、と実に軽々しく挨拶してきたのだ。
にこやかに、実ににこやかに。
それはもう本当に、何度も言うほどにこやかに。


「もしかして、心配してくれた?」


それに黙ってしまう俺にまた今度はその笑みが満足そうな笑みに代わって腹ただしい。
そんな笑顔を作るアフロディに、といよりはそんな顔を作らせてしまう俺自身に対して。
まあ確かに多少心配していた気がある分、否定が出来ない。
ふわりとその長く細いさらさらとした金髪を靡かせて、こちらに近寄ってきた。
何をしても絵になるその様をぼんやりと何も言えず見つめていると、またアフロディが口を開く。


「寂しかった?」


その言い方は実に確信的だった。
そしてそれはまさしくその通りで、言い返すことなど出来ない。
それと同時にしまった、とすら思う。
完全に嵌められたのだとこの時、悟った。
押して押して引いて、ってやつだ。
全てはアフロディの思う壺で、この目の前の柔らかに満足げに笑う奴にすっかりと。
思わずそれが分かってしまって少しだけ自分の残念さに笑ってしまうとアフロディは不思議そうに小首を傾げた。
そして傾げたかと思うとそのまま。
少しだけ真剣な、試合中さながらの凛々しい顔付きになって、俺の手を取る。
そして校門の壁に体を押し付けられ、これで内面も、外見も逃げ場はなくなってしまった。
かなわないと思えば、実に潔い。


「ねえ、どうなんだい?」
「何が?」
「だから寂しかったのかどうか。」


そう問うアフロディの視線は実に真剣で、俺は素直に「寂しかった」と言った。
もうこうなればヤケに近い。
思っていることを全て履きださなければという概念にさらされる。
へえ、とこれまた満足そうに笑い俺の高い位置に結ったポニーテールをその綺麗で細く、白い指で摘まれた。
指先と指先をこすり合わせるようにじりじりと、いじられるそれに対抗して俺も手を伸ばす。
そのずっと触ってみたいと密やかに思っていたその金髪は、まるで砂糖菓子のようになめらかで、さらりとしていた。
消えてなくなってしまいそうな儚い色だと思っていたがまあそんなことはなく、俺の指先にしっかりと挟まっているそれをいじくっているとアフロディの手が俺の頭の上に移動して、それからつつ、と手のひらが滑る。
そのまま俺の右頬にアフロディの右手?あ、いや違う、左手が降りてきて、添えられる。


「僕ね、」


と口を開くアフロディの顔を見つめつつ、大体この後の言葉は容易に予想できた。
正直なところ、そこまで鈍くなどはないのだ。


「風丸君のことすきなんだ。」


そういう様は実にそれはもう実に。
嘘などないのだと、言う目がとても印象的だった。
それに俺も一度はしてやられた立場であるために、それはとても拒絶できない。
何故ならこの2週間ですっかり、侵食されていたのだ。
そしてそれを断る道理など、あるはずもなく。
けれど何故かどうにも、素直にその気持ちを受け取ってやらないのは、それは俺に出来る小さな抵抗で。


「へえ、」


第一声はそれだった。
実にそっけない感じに仕上がったと思う。


「それで、俺にどうしてほしいんだ?」


好きだから、どうしてほしいんだと分かり切っている癖にそれを聞く。
単なる悪戯心と仕返しのつもりのわけなのだが、これが墓穴を掘ったと気付くまであと3分。
少しだけ考えたアフロディから、凄まじい勢いでこっぱずかしいこと言われて、実に了承しづらくなるのだった。





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匿名さんから頂きました「照風で付き合う時の話」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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