関係模様










約束の時間に少し遅れて来てみれば、唖然とした。
源田がたまには4人で出掛けてみないか、と誘ってくれて、折角だしと面倒臭がる不動を説得してやっとのことで当日を迎えたわけだが。
用事が入り、少しだけ遅れると連絡すると、源田も遅れるらしいということを聞いて、少しだけ、嫌な予感はしていたのだが。
佐久間と不動を二人にしていいものか、と。
和解したものの、それはサッカーに関してだけで。
あの二人は実に仲が悪かったのだ。
だがしかし、きっと。
少ない希望に賭けながら、待ち合わせ場所に向かう。
しかしそれは見事に裏切られ、目の前に映る壮絶な光景に、俺は立ち尽くすしかなかった。
それは、静かな攻防戦である。
お互いが素知らぬ顔でお互いの足を蹴りに蹴っていたのだった。
何処の小学生だ、いや、小学生に失礼だという程、お互い前を向いて、真顔で攻撃しているのだった。


「…何をやっている。」


やっとのことで、そう声を掛けていた。
それは、挨拶ですらなかった。
昔から『挨拶はきちんとしろ』と教え込まれていたが、その教えを破る程に酷い光景だったのだ。
その声に凄まじいスピードで振り向かれて、俺は少々狼狽えてしまった。


「…鬼ど」
「鬼道!久し振りだな!」


とわざとらしく不動が俺の名前を呼ぶのを阻止する佐久間。
明らかに不機嫌そうに佐久間を睨みつけている恋人に、苦笑する。
ぱたぱたとまるで犬のように嬉しそうに寄ってくる佐久間を後ろから…さっきの場所に座ったまま、それはもうこちらに聞こえるような大きな音でわざとらしく舌打ちして、である。
なんとも感じが悪い…が、まぁいい。
毎度のことである。


「源田は?」
「まだだな。どっかで蝶々でも追っかけてるんじゃないか?」


仮にも確かこの二人も付き合っていたような気がしたが、酷い言われようである。
源田は普段ほわほわしているが流石にそれはないぞ、多分。
まぁしかし源田は例え佐久間に何を言われようが、笑って流す様がありありと想像出来ることが少々情けない。
いや、だがしかし。
我が恋人もきっと俺の扱いはこんなもんだろう、と思うとなんかだか悲しくもなる。
この二人は根本的なところが似ているから、仲が悪いのだろう。
同族嫌悪、というやつだ。
そんなもう片方…不動は、もう別の方を向いていて、こちらを見向きもせず先程の場所に座っている。
今日が思いやられるな、と思いつつ、一気に肩が凝った気がして首を回した。


「あ、」


ツンとしていた不動が短い声を上げ、その視線の方を見ると、源田が歩いて来ていた。
俺達を見つけると実に申し訳なさそうに笑う。
不動がゆっくりと立ち上がり、よう、と右手をあげた。


「不動、久し振りだな。」
「あ?一昨日学校であったばっかだろ。」


と、当たり障りのない会話をしながら、源田がまるで小さな子をあやすように頭をくしゃり、と撫でた。
柔らかな髪の束が緩やかに舞って、源田の指の間から覗いている。不意に気になって、横にいる佐久間の様子を見る。
先程の勢いは何処へやら、ぼんやりと突っ立っている。
素直になればいいのに、と佐久間の背中をぽん、と軽く叩くとびくり、と震えて俺の方を見た。


「…何をぼんやりしている。さっさと行くぞ。」


そう言って、歩き出す。
佐久間もきっと付いてきているに違いない、と。
そして俺達に気付いた源田と不動が此方を向いた。


「佐久間、鬼道。遅れてすまないな。」


源田は実に律儀な男で、もう一回、実に申し訳なさそうに告げる。
ああ、大丈夫だ、俺もさっき来たばかりだ、と告げると少しばかり安心したのか、へらりと笑った。
肝心の佐久間が何も言おうとしないのでもう一度ぽん、と背中を叩いてやる。
びく、ともう一度そう反応して、ゆっくりと源田の方を向く。


「…遅いんだよ…。」
「すまない。」


やっとのことでそう絞り出し、それに源田も答える。
素直じゃないのだ、この男は。
源田が来て嬉しい癖に、真っ先に不動の元に向かわれて複雑な癖に。
もっと素直になれば楽だと言うのに、不器用極まりない。
そのまま先程の不動同様にぽふり、と頭を撫でられ、一瞬目を見開く。
そしてそのまま、多分照れ隠しなのだろう、源田を軽く蹴飛ばして、さっさと行くぞ、と源田を促した。
二人が歩いていくのを微笑ましく思いながら見ていると不動が横に並ぶ。
やはり俺の隣は不動でないしっくりこないな、と思いつつ不動の方を見た。
此方を覗き込むようにニヤリと笑いながら不動も見ていた。


「鬼道ちゃん、お疲れさん。」
「…何がだ?」
「またまた。世話がやけるな、って話。」


あの二人、つか佐久間。
と不動は続ける。
ああ、と頷いて見せると不動がそれと、と続ける。


「鬼道も妬いてくれて良かったのに。」
「……顔に出ていないだけだ。」


そう言って先程源田がしたように、不動のその柔らかな髪を撫でた。
此方も多分照れ隠しなのだろう、直ぐにそれは弾かれてしまったが、少しだけ嬉しそうに眉を下げて笑う不動に、俺も眉尻を下げた。





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匿名さんから頂きました「源佐久+鬼不でダブルデート」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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