Un agnello assente










朝、目が覚めると横にはマルコがいて。
一緒に被っていた布団を強奪され、それにしがみついて、丸くなっていた。
道理で寒いわけだ、と納得しつつ、呆れつつ。
まあいつものことなので気にしない。
マルコの寝相の悪さは本当に毎度毎度のことで、そして俺のベッドに潜り込むことも、寮で同室になったその日から、毎度だった。
はじめは男同士一緒に寝るなんて、といくらマルコでもいやでしかたなかったが、慣れとは怖いもので、最近では特に気にならなくなってしまっていた。
しかし、こんなところを女の子たちに見られるのは嫌だ、とは思うけれど。
とりあえず服を着よう、と思い、ベッドを後にする。
しようとした。
けれど、それは阻まれてしまう。
くん、と引かれて、またベッドに沈んでしまった。
その原因を作った本人に文句を言おうと、マルコの方を見ると、寝起きとは思えないほどの力で俺の腕を引っ張ったにも関わらず、その大きな目はとろりと溶けて、目じりには涙がたまり、明らかに寝起きそのものである。
眠そうにしょぼしょぼと幅の大きなゆっくりとした瞬きをしながら、布団から出したその裸の手は、俺の腕から離そうともしない。
俺がくい、と軽く腕を動かすと、チームメイト全員と揃いのトリコロールのミサンガがマルコの左手首で揺れた。


「・・・ジャン、どこいくんだ?」


そう言った、と思う、多分。
多分というのは、マルコがあまりにも寝起き過ぎてぼそぼそと喋ったからだ。
まだ呂律すら回っていないこの状態でも、一向にその手は離れようとしない。
諦めて、とりあえず沈んでしまった体をベッドの上で起こし、座る。
マルコのほうをじっ、と見るが、やはり今にも寝てしまいそうな程である。


「・・・何って、服。」
「・・・・・・・・・今日練習ないのに?」


まあ確かに練習はないけれど、早く起きる癖をつけておかなければ、次の日がつらい。
生活リズムを崩してしまうと、どうにも、体の疲れが抜けないのだ。
マルコはその逆で、休みの日は殆ど寝てしまっている。
普段の練習がある日は全然朝早く起きるのだが、休みの日は一気に気が抜けるらしかった。
だから今も、普段ならもう起きなければいけない時間帯なのに、うとうととしているのだ。


「ないけど、体内リズム、大事だし。」


そう言って、マルコの手を外そうと、マルコの指を一本一本外していく。
存外すんなりと取れたその手が、また俺を掴もうと宙を掻いているのをかわしながら、今度こそ、と思いベッドから抜け出そうと、ベッドの渕に座りなおした。
すると、ベッドが弾んで、何事だ、と思うと同時に、後ろから、生の肌特有の妙な温かさが背中に伝わる。
そしてぽふり、と肩口と頬に柔らかい何かを感じて、少しだけ視線をずらすと、マルコがべったりと俺の背中越しにくっついていたのだった。
しかしまだ眠いのか、俺の方に額をくっつけたまま、ぐったりとしているマルコは、俺の腹に腕を回す。
そして今持てる力を全て出し切っているのだろう、ぎゅううと密着されてしまった。
流石にこれを引き剥がすのは骨が折れそうだ。
回された腕に手のひらを置き、とりあえず触れてみると、眠いのか、酷く体温が高い気がする。
朝の、まだ起ききっていない体にはそれは酷く誘惑的で、俺まで眠くなってきそうだ。


「マルコ、」
「ん〜・・・?」
「離せ。」
「やだ。」


そういって、頑なに離れようとしない。
朝日はもうすっかり昇って、俺たち二人を照らしているというのに、一体いつまでお眠モードなのだろう。
シエスタの時間に寝れなくなっても知らないぞ。
ぎゅうと抱きしめられた腕は、一向にその力を失わず。
どんどんとベッドに体が縫い付けられているような、そんな感覚にすらなる。
まあいうなれば、マルコの体温で自分も情けないことに眠たくなってきたというわけで。
上の瞼と下の瞼が仲良くしようとするのを阻止するために目をごしごしとこする。
顔が少し動くとマルコの癖毛があたってこそばゆい。


「マルコ、いい加減にしろ。」
「いやだ。」


酷くいつもより聞き分けがないマルコが顔を上げる。
それを横目でちらりと見ると、先ほどよりは随分すっきりとした顔をしているが、やはりまだ眠そうだった。


「ジャンルカ、責任とってよ。」


顔を上げたマルコはそう、ぽつりといった。
責任ってどういうことだ、一切身に覚えがないというか、そもそも何に対しての責任なのか。
なかなか言い出さないマルコの次の言葉を待ちながら、考えるが何も浮かばず。
この現在の状況と、それと。
一体何の関係があるというのだろう。


「…俺、ジャンが隣にいないと駄目だ。」


落ち着いて寝れないよ、と続ける。
要は、二度寝がしたいから、人肌恋しいから、側にいろということなのだろう。
呆れてものも言えないが、より一層後ろから体重をかけられ、ぎゅうと抱き付かれてしまっては、抵抗出来ない。
寧ろこの肌寒さが、後ろの熱量でなんとも心地よい。


「…今日だけ、だからな。」


次はないぞ、と続けるが早い、やったー!とまるで小さな子供のように歓喜して、俺の体ごと横に倒れた。
マルコの体は温かすぎて、直ぐに俺を引っ張っていく。
とろりと溶けて、夢の中。
たまにはこんな休日も、いい。





***
狭山さんから頂きました「マルジャンでゆったり甘々」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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