こっちむけよ











するりと手を伸ばし、相手の首に絡み付ける。
片方の手のひらで頬をするり、と撫で、それを上に移動させる。
そして口角を上げ、こう言うのだ。


「へえ・・・辺見、今日もいいデコしてんな・・・?」


目の前にはドン引きの辺見という非常に残念な光景である。
そして俺の腕には大量のサブイボが出ているわけで。
思春期のニキビ面もびっくりするほどブッツブツである。
さらりと指先で辺見のデコをなで上げると辺見が怪訝そうな顔で見つめてくる。
こっちみんな。


「佐久間・・・おまえ・・・」
「・・・何も言うな。」


俺が一番よく分かっている。
病院行ったほうが良いんじゃないか?だろ、その続き。
俺も、そう思う。
まあ、俺は至って正常で、別に急に辺見が可愛く見えてきたとか、そういうわけでは!断じて!ない。
けれど、俺にはどうしても別に撫でたくもなんともない、辺見のデコを褒めに褒め、全力で優しく撫で上げなくてはならないわけがある。
それが、教室の隅でボケーッとしている恋人、源田幸次郎絡みであることは、まあ多分、本人も、辺見も気付いていないだろう。
こう、よくあるだろう、束縛するやつ。
源田はその逆で、全く持って放任主義なのだ。
俺はどっちかというと束縛はされたくないタイプなのだが、あまりにも源田は放任過ぎるのである。
俺が誰と仲良くしてようが「仲良しだな」にこにこの一言で終わるのだ。
偶には妬いてくれたっていいんじゃないのか?
とかなんとか、柄にもなく思ったわけで。
流石に抱きついてべたべたしていたら何かアクション起こすんじゃないだろうか・・・と思って・・・だな・・・。
で、辺見である。


「・・・おい、」
「・・・いいから黙って付き合えよ・・・。」


じとりとした目で見てくる辺見にそう小声で告げる。
ここで俺が嫌々やっているだなんて源田に知られたない。
そんな、源田に妬いて欲しいがためにこんなことをしているだなんて知られたら俺のプライドはベッキベキにへし折られた後、肉体は確実にあまりの羞恥に爆発します。辺見を撒き沿いに。
辺見が呆れたようにため息をついて、好きにしろ、だなんていうもんだから、とりあえず辺見ともっと密着してみる。
ぶっちゃけ暑苦しくていやなことこの上ないが、目標達成の為なら喜んでこの状況も受け入れよう。
受け入れてくれ、俺の精神。
自分からやっといて失礼極まりないのは重々承知ではあるが、きっとどうせ辺見も同じことを考えているに違いない(確実にそういう顔をしている)ので数々の無礼な言葉で己を叱咤する。
そして当の源田はというと、ちらりと盗み見るとこちらを見向きもせず、せっせと鞄に教科書をこれまた几帳面に詰め込んでいるのだった。


「・・・・・・」
「・・・どんまい。」


辺見にどうやらばれていたようだった。
哀れんできた辺見に全力でデコピンをかましたいのを我慢して、源田に視線を送るが気付かず。
なんというか、よくゴールキーパー出来てんな・・・と思うほどの気付かなさっぷりである。
どうしたものか、と次の作戦を練っていると、廊下側の窓から、実に元気な声がする。
成神だ。


「源田センパーイ!!ちょっといいっすか?」


そういって上級生の教室にもズカズカと侵入するあたり肝が据わっていて清清しい限りである。
源田の席まですいすいと近づいていき(一瞬此方を見たが、残念そうな顔をされた)、なにやらごそごそと鞄の中を漁っている。
その中から、一枚のプリントを取り出してなにやら源田に見せているようだ。
それを見た源田がそれは嬉しそうに笑う。
そしてぽふ、と成神の頭を撫でた。


「……」


するりと腕を外す。
そして呆れ顔の辺見を置いて、2人の方へ。


「あ、佐久間先輩。」
「佐久間、どうし…」
「…源田、ちょっと」


来い、と頭を撫でている方じゃない方の手を力いっぱい引っ張る。
勢いのまま立ち上がった源田の手を引いて、教室を出る。
ぐいぐいと引っ張って、廊下を突っ切る。
なんだか、嫌だった。


「…佐久間?」
「……っ!!」
「…おっ、」


源田の呼びかけに急停止。
俺は何をやってんだ。
気を引く筈が、逆に嫉妬するなんてどういう了見だ。
ああもう、と源田の手を離して頭を抱える。
不思議そうに大丈夫か?と見てくる源田が、くそが付くほど鈍いコイツが。
とんでもなく好きなんだと、再認識させられて、なんつーか、悔しい。


「…テメェ、」
「ん?どうした」
「源田の癖に、生意気なんだ…よっ!!」


がつんと臑に蹴りをヒットさせる。
痛がる源田をみて、何だか胸がすっとした。





***
匿名さんから頂きました「佐久間が嫉妬させようといろいろ頑張る話」でした。
フリリク企画にご参加、ありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します。




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