L'orgoglio disturba マルコは酷く、人気のある奴だと俺は認識している。 男女問わずに分け隔てなく、人の良い、人懐っこい笑顔をいつも振りまいて。 周りにはいつも沢山の人がいる。 だから、である。 マルコが何故、俺みたいな、しかも男を選んでしまったのか全くの謎だし、その疑問は一緒にいる間まったくと言っていいほど尽きるはずもなく。 だからこそ、遊びなんじゃないか、興味本位で付き合っているんじゃないかと疑ってしまう。 そんなことをしてはいけない、もし、本当にマルコが俺のことを好きで、それが全部誤解だとしたらとんだ失礼な話なのだ。 けれど、どうも最近。 マルコが俺といる機会は極端に減っているのも事実で。 別に四六時中、恋人と一緒にいたいという部類ではないけれど。 けれど何故だが、妙にぽっかりと空いたこれはなんなのだろう。 普段から感じているその言い知れぬ不安が、よぎりによぎる。 マルコは、俺のほかに彼女でもいるんじゃないのか? それを心の中で言葉にしてしまえば妙に現実味を帯びてしまう。 今日だって部活が終わればすんなりと帰宅してしまって、俺と目を合わすことすらしなかった。 言葉にしてしまったそれがすっぽりと、空いた穴に落ち着いてしまって、どうしようもない。 うじうじして、らしくないと思うのだ。 けれど、考えずにいられない程には、俺はマルコが好きだった。 「……はあ、」 今日の夕飯は母が俺の好物を作ってくれたものの、味はよくわからなかった。 夕飯が終わり、自室に戻って今日出された課題をしようと机に向ってみたものの、出るのはため息で。 本当にどうしようもないな、と思う。 何も手につかないなんて、女の子じゃあるまいし、なんて女々しいのだろう。 けれど最近、本当にマルコと接触していないのは事実で、携帯をじい、と無意識に見つめてしまっていた。 手を伸ばせば届く距離にある、携帯。 そのアドレス帳からマルコの名前を探し出して、ボタンひとつで繋がるのに。 それが出来ないのは、変なプライドが邪魔をしているからで。 俺がマルコのことがこんなにも好きでたまらない、という事実を、マルコに知られたくなかったのだ。 面倒な羞恥心が邪魔をして、マルコと話がしたいのに、それが出来ない。 そんな自分が馬鹿馬鹿しく、そして今現在、どこで何をしているかわかりやしないマルコが腹が立った。 もしかすると、本当に他に彼女がいて。 その彼女とデートしているかもしれない、と考えてしまって、どうにもならない。 本日何度目かわからないため息をついて、通学用の鞄の中からノートと教科書を取り出す。 いい加減、課題をしてしまわなければ、眠れやしない。 すると、その時。 マナーモードにしっぱなしの携帯が光っていることに気づく。 そういえば手を伸ばし辛く、メールや着信の確認を一切していなかった。 おずおずと手に取り、見ると、そこには待ち望んでいたあの名前。 「え…あ、」 動揺してどうにも指先が震える。 なんでマルコが、という以前に、自分がどれほどまで彼を待ち望んでいたかが分かって。 頬が無駄に紅潮するのが分かって、馬鹿か、と思う。 一度少し深呼吸をして、それから携帯を手に。 ぐっと眉間に皺を寄せて、耐えて。 携帯を両の手で撫でまわして落ち着いてから。 ゆっくりと確認する。 マルコから着ていたメールは2時間前と随分前で、見るとそこには。 『今から出てこれる?』 と書いてあった。 今からと、なると、2時間前。 そして大抵、こういうメールが来る時は、場所は決まっている。 巨大な噴水のある赤レンガの通り。 マルコの性格なら、確実にそういうメールを送ってくるときは既に待っているときで。 これはまずい、と慌てて上着を鷲掴みし、その場所まで走った。 走って走って、皮靴が赤レンガにぶつかって傷付くのも構わず。 かつんかつんとうちならす音に、もう少し履きやすい靴を履いてくるんだった、と後悔する。 もういないだろう、だって二時間だぞ、と思ってその場所に辿りつく。 「ジャンルカ!」 「……マルコ、」 そこには予想に反してマルコが居て、度肝を抜かれる。 二時間待っていたのか、白い息を吐いているマルコの鼻は赤い。 顔を手のひらで包んで温めてやると、マルコが目を見開いて、それから嬉しそうに笑う。 「何、ジャン、どうしたの。今日はやけにサービスがいいね。」 とかなんとかいってからかうが、待たせてしまったのはこっちで。 なんでまだいるんだ、と問いかけるとどうせマナーモードにしっぱなしだったんだろ?気付いてないと思って、という。 なんでもかんでも付き合いの長いマルコにはお見通しだったというわけで、少々情けなくなる。 「で、何。」 「え、別に?ただジャンに会いたくて。」 問いかけにそう返されて、唖然とする。 何だそれは、と憤慨しそうになる。 こんな寒い中で一体何をやっているんだ、と怒鳴りたくなる。 それに、それに。 会いたいなら、話したいなら。 別に放課後でもよくはないか。 やっぱり他に彼女がいて、そっちを優先していたのだろうか?と鬱々とした気持ちが爆発する。 マルコの頬から手を離して、その俺の手を掴もうとするマルコの手を振り払う。 そのままうつむいて、どうしたものかと思う。 不安定な自分に嫌気がさして、どうにもならない。 「ジャン?…ジャンルカ?どうしたんだ?」 そう言ってマルコは懲りずに俺の腕に触れる。 ぎゅ、と手首を掴んで、離そうとしない。 そのまま諌めるように抱きしめられて、抜け出そうとしたが抜け出せず。 俺より背が低いくせに、力だけは妙に強い奴だ。 よしよしと背中を撫でられて泣きそうになる。 泣くだなんて、そんな女々しい、と思って我慢するも、鼻の奥がツンとして非常にまずい。 その手で、その力で、その温もりで。 他の誰かを抱きしめたりするのだろうか、とどうしても思ってしまう。 興味がないことにはとことん興味はないけれど、マルコに対してはこれほどまでに。 渦巻く黒に耐えられない。 「ジャンは何がそんなに不安なの?」 その問いに答えられない。 的確なマルコの言葉が突き刺さる。 これ以上をマルコに言うのは、表現するのは。 どうしてもプライドが許さなかった。 *** シマさんから頂きました「マルコの浮気を疑うジャンルカ」でした。 フリリク企画にご参加、ありがとうございました! これからも宜しくお願い致します。 . |