「……どちら様、でしょう?」
「弓月、刀から手を離しなさい。」

 片割れにぴしゃりとそう言えば鋭い視線が突き刺さる。くるりと回って私はすみませんとその人に頭を垂れた。日本さまの大事なご友人なのだから粗相は許されないのだ。カチャリ、鍔が動いた音がした。どうやら刀から手を離したらしい。

「申し訳ございません、亜米利加さま。」

 顔を上げれば、青空のような青色の瞳を持ったお方が「気にしなくていいんだぞ。」と独特の訛りでそう仰った。「……この子は?」彼の瞳は微かに動き、ぴっしりと直立している弓月へと注がれた。

「わたしめの片割れ、大日本帝国陸軍でございます。名を本田弓月と申し上げます。」
「へえ、随分と楽しそうな子だね! 俺はアメリカ合衆国のアルフレッド・F・ジョーンズさ。気軽にアルって呼んでくれよ!」
「……先程の粗相をお許しくださいませ”亜米利加殿”。……以後良しなに。」
「……弓月、失礼ですよ。」
「煩い伊月。」

 ”殿”と言うのは相手を自分より下と認識した時に使われる敬称である。亜米利加さまが日本語の意味を理解してないといっても、余りにも危険な橋を片割れは叩いて渡っているということをきちんと解かっているのだろうか。コイツのことだから解かっているからこその行動なのだろうということは良く知っているのだけれど、解せぬ。

「そんな固くなんなくてもいいのになぁ。ま、いいや取り敢えず菊に会わせてくれよ。」
「はっ。こちらです。」

 腰を折って礼をする弓月の隣をゆっくりと通り過ぎる。ゆっくりと言っても私は半分走っているようなものだった。欧米人の方は皆足がすらりと長くて、身の丈も大きい、東洋の人種とは進む距離が全然違う。しかも他人に気を使わないときた。ここは日本だというのに、何故自分たちを押し通すのかが分からない。理解できない。そんな気持ちを八つ橋にくるんで、心の奥へと仕舞い込んだ。応接の間まで、あと少し。
 重たい重厚なつくりの扉を開き、中を覗き込めば日本さまがこちらを見たのを確認してから亜米利加さまを中へとお通しした。
 

―――わたくしめはたとえ辛くても、御国のため日々精進するのでございます。

「さあて菊、俺とお話しようか!」

―――この様な方々を相手取る日々に、負けぬように



( 伊月、ご苦労様でした……随分疲れているようですね? )
( 足の長さ……格差社会の影響がここまでとは思いませんでした )



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