帰り道
学校の時計は6時を示していた。既に暗くなっている向こうの空。まだこちらの空は西からの太陽の光が対抗しているのか比較的明るいものの、パステルカラーのオレンジとブルーが混ざり始めている。家へ帰る頃にはとっぷり日も落ちてしまうのだろう。一人楽しすぎる何時もならとっくに帰っているが、今日はそうもいかない。それにしてもあいつはいつ来るのだろう。まさか何処かで迷ってる訳でもないだろうに。
「ギルー!」
「遅いじゃねえか。心配してたんだぞ。」
やっとやってきた名前は肩で息をしていて、頬が高揚して赤く染まっていた。そんな名前の肩に掛かる学生鞄が目についた。ぱんぱんに教科書が詰め込まれたそれは”紙”が大好きな日本人に纏わりつく弊害だと思う。幾ら紙がいいからって生徒のことを考えて電子化しろと思う。
「それ持ってやるよ。」
「いいよって、あ……。」
「なんだこれ滅茶苦茶重いじゃねーか。」
10……いや、下手したら15キロはありそうなそれに溜息が出る。重すぎだろ。これじゃあ肩に手提げの紐が食い込んで痛いだけだろうに。骨も歪みそうだ。
「ありがとう……。」
ゆっくりとはにかんだ名前の柔らかな髪をくしゃりとなでつける。恋人なんだからこれぐらい引け目を感じなくてもいいと思いつつもやはり礼を言われるというのはとても気分がいい。それも愛しい恋人のはにかみ付きだ。
ちょいちょい、服の袖を引っ張られる。どうしたんだと顔を向ければ彼女がもう片方の肩に引っ掛けている俺のバッグを指差した。
「ギル、じゃあ私がギルの持つ。」
俺のバッグはあって3キロといったところだ。理由は俺が置き勉して最低限の物しか入ってないからだ。ゲーム器数台、汗をぬぐったタオル、ジャージ……SMのエロ本、とか。別に不純な理由じゃなくてこれも一つの勉強だと思っているからだ。これ目の前の彼女に言ったらぶんなぐられそうだ。そんなことを思いつつ俺は自分のバッグを名前に渡した。そしてやっと歩き出した。
夜風が少しだけ熱を持った肌を掠ってその熱を奪っていく道を俺たちは一歩ずつ確かに家に向かって足を進める。
「俺が持ってても良かったんだぜ?」
「だってもう重いの持ってもらってるし、それに……。」
ぎゅう。小さな手が俺の手を掴んだ。外はこんなにも冷えているのに、場違いなほどに熱い指先をたどたどしく絡める。
「両手使ってたら、手、繋げないでしょ?」
ああ、もうこうもドツボを突いてくるとは。
―――俺の彼女、可愛過ぎるぜ。
むこうの空の朱色に頬を染めた名前に唇を寄せた。
帰り道
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