愛情をあげましょう
人の事をどうと言える立場ではないことは分かっているけれど、これは酷いんじゃないかな。人の事を放ってさっさと問題集を進めてしまう菊に私は少しだけ頬を膨らませた。そこに詰まっているのは不満と嫉妬。
今日は久しぶりに学校に残ることも無く、一緒に帰ることができた。ついでに部屋にまでやってきたのだから少しだけでも恋人らしい雰囲気になる筈だと思ったのに。部屋にやってきた途端に「さあ、中間テストの勉強しますよ。」と言って勉強道具を広げた時は頭に来たがそれももう呆れになってしまっている。多分、昨日位に話した勉強嫌だ、教えてと言う言葉がフラグだったのだろう。あの時の私、口にトッポでも刺して黙らせたい。
「菊。」
「……。」
「きーくぅー!」
「なんですか、勉強しましょうよ。」
くるとこちらを向いた彼は不機嫌そうに眼鏡をくいと押して、その眼鏡の薄いフィルター越しに私を睨んだ。ゆっくりと伸びた手が私の頬をつまんで縦横無尽に引き伸ばす。痛い痛いと口にしても、目の前の恋人は不機嫌そうな表情の中に隠せてない意地悪な笑みをにじませていた。
「菊って、実は私のこと嫌いでしょ。」
「好きですよ。」
「じゃあ何処?」
「顔とかスタイルとか。」
「サイテー。」
「だって、私は貴方が好きなんですよ。どんな嫁よりも貴方が好きなんです。」
「うぇっ。」
真っ黒な瞳がすうと突き刺さる。急にデレた真っ赤になった自分がそれに反射していた。
すらとした指が頬を下から上へと撫ぜて、耳の髪を掻き上げる。真っ赤になった耳元へと彼は薄い唇を寄せた。吐息が掛かるたびに背がこそばゆくなり体が少しだけ震えた。
「貴方のずぼらなとこも、がさつなところも、勉強が出来ないところも、そしてなにより嫉妬深いところも、全部ぜんぶ、好きですよ。可愛い。ほんとに、可愛らしいです。」
「ちょ、あの!?」
「大好きです、名前。」
愛情をあげましょう「だから、一緒に勉強しましょうね?」
「上げて落とす悪魔がいる。」
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