一つでいいから
「ねえ、一つお願いがあるんだけど…」
そう言って彼はふわりと笑って首を傾げた。その姿は大人の男性に言うのもあれだけれど、とても可愛らしい。
が、その内容を聞く気はなれない。
なぜなら以前、自分にできるくらいのことならやろうという気持ちで頷いたところ、真冬のロシアだというのにひまわりが見たいと言われたからだ。
拒否権などあるわけもなかった。
というわけで、
「いやですよ。だってイヴァンさん、無理難題しか言わないじゃないですか」
私だって学習する生き物である。
すると、相変わらず笑顔ではあるものの、悲しげな表情になる。
これが素なのだから恐ろしい。
なんだか私が悪者みたいじゃないか。
「…それに私、イヴァンさんのお願い叶えられるほどの国力ないですし」
どう見ても自分を正当化するための言い訳なのに、イヴァンさんはパッと顔を明るくした。
あ、嫌な予感。
「大丈夫だよ、そういうの関係ないもの。すっごく簡単なんだけど…」
「すっごく怪しいですよ。またひまわり見たいとかじゃないですよね?」
うん!と頷く姿は、大きな体に対してとても子供っぽい。
だからなのだ、と言い訳じみたことを考える。
「…私にできないことならしませんからね?」
なんだかんだ言って、一生懸命に彼のお願いを叶えようとしてしまうのはそのせいなんだ。
そんなことを考えているうちに、イヴァンさんは嬉しそうに笑って言ってのけた。
「君が国じゃなくなって消えちゃうまで、ずっとずっと僕の側にいてよ。それで、ずっとずっと僕のものでいてよ」
できるよね?
なんて、そんな。
叶えられるお願いなんて、
一つでいいから
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