フェリクス・ウカシェヴィチというのはかなり個性があり癖のある、そして約束を重んじる人物だ。 最初こそ人見知りで、誰かの後ろに隠れたがるけれど、慣れてしまえば今までの接し方が嘘のように柔らかく、そして横暴になる。けれど、誰かときちんと結んだ約束を破るような人物ではなかった。 そんな彼だった。この学校で最初に、私の化けの皮を見破ったのは。 ペンを指先でくるりと回す。一通りは写し終えた板書、今は古典の泉センセーが誰も聞いていないと言うのに雄弁に話をしている真っ最中だ。視線を動かさなくても、誰が何をやっているかなんて直ぐに予想は付く。皆がみんな、授業が始まる前から堂々と携帯やゲームを卓上に出していたからだ。ああ、馬鹿みたい。 机に肘を付いた手が頬を押す。不格好だと思いながらも、この退屈な時間を過ごすのだから少しぐらい姿勢が悪い方が皆に溶け込めることを知っていた。目立たないように、ひっそり、ひっそり。 授業終了まで、あと五分。
「ちさー!」 「はい。」 あれから数日たっているというのに女装を貫き通しているフェリクス。彼は私の机の横の席に腰を降ろす。手に持っていたリプトンのパックから伸びるストローを口元に寄せていた。 「古典のノート取ったー? 俺寝ちゃったんよー。」 「はい、明日もあるからちゃんと持ってきてね。」 「マジ感謝だし! 」 御礼、と言って彼の親戚から貰ったと言う異国のお菓子を口の中に突っ込まれる。抵抗する事さえなくぽりぽりと食べ進める。パルシュキというらしいことを聞きつつ、頭の端では早く旧校舎の教室行きたいなぁと考え始めていた。
放課後何時ものように絵を描いていると木炭と数色の絵具が少なくなっていることに気づく。 最寄りのホームセンターに寄ってから帰路につくと既に外は暗くなり始めていた。暗い道を歩くなか、夜の空気が吸い付くような感覚をおぼえた。
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