ぐつぐつと蕩ける鍋の中に、溶いた卵を入れて掻き回した。少し煮たてた後、スプーンでそれを掬って口に運んだ、少し熱いが味は大丈夫そうだ。ふうふうと息を吹きかけてもう一口食べる。うん、やっぱり美味しい。器におかゆをよそって戻ってくると、ぼうとした顔のアーサーさんが上半身を起こしていた。 「卵とごはんお借りしました。はい、どうぞ。」 「……たべさせろ。」 「……子供ですか?」 「いいだろ、べつに。」 腕上がらねぇんだよ。拗ねたように彼は言った。ああ、丸まって寝てたから腕が痺れたのか。なんだか子供っぽい一面を初めて見たような気がして、私は少しだけ頬を綻ばせる。 「ふー……。はい、あーん。」 「が、餓鬼あつかいしやがって……。」 そういいつつも恥よりも飢えが勝ったのか、彼は恐る恐るとスプーンを口に含んだ。そこまで壊滅的な味ではないと思いたい。これでも家では家事全般を受け持っているので、それなりに料理は出来るつもりだ。 「……美味いな。」 「よ、よかったぁ……。」 「は、はやく食わせろ。」 すべてが綺麗に無くなり、真っ白な底が見えた皿をテーブルに置く。 お皿に盛ってあったおかゆが無くなるのに、さほど時間はかからなかった。 人に食べてもらうってなんだか嬉しい。久し振りにそんなことを想う。 「日向、その迷惑じゃなきゃ……晩飯も……ってこれは俺の為なんだからな?」 「……夕食御一緒していいんですか?」 私なんかが。この人と? 疑った視線を送れば、彼は意味が分からないと言いたそうな表情を浮かべて言う。 「勿論いいにきまってんだろ。」
誰かと机を囲むなんて、何時振りのことになるんだろうか。 立ち込める湯気にふふんと鼻を鳴らした。何故だかアーサーさんの家にはレトルトばかりだったが、何とかあるもので作れてよかった。今回はチーズとトマトのリゾットだ。昔よく風邪の時に作って貰っていたものだ。 出来上がったそれをリビングに持っていくと、幾分か体調が良くなったらしいアーサーさんが、毛布を着こみつつも机の前に座っていた。彼の前にそれを出して私も向かい側に腰掛けた。 「また米か?」 「米は米でもリゾットです。」 手を合わせる。いただきますの声が二つ重なった。 「ん……うめえ。誰かに習ったのか?」 「ええっと……確か、これはフラン……。」 あ、と零した後に口を閉ざす。 あの髭とかかわっているなんて知られたら、この人はどう思うだろう? あんまり仲が宜しくなさそうだった人のことを自分から口にする趣味はない。 「フラン?」 「……幼馴染の一人に、教わったんです。私、取り柄とか全然なかったから、その人に教わったんです。」 嘘と真実を織り交ぜて、私の口は勝手に動く。また偽るの? 頭の中で誰かが問う。勿論だよとまた私じゃない誰かが返した。 口の中で溶けたリゾットは、さっきよりもなんだか味気なかった。
07
|