携帯のディスプレイが僅かに光った。授業中だというのに、急に何だろう。設定で、ある人からのメールはランプが緑色に光るようになっていたため、誰からの着信だったのかは火を見るよりも明らかだった。そっとそれに手を伸ばし、中身を確認する。 「風邪引いた、って……。」 呟いた言葉は、授業の喧騒の中に消えて行った。
アーサーさんが、熱を出したらしい。 メールで彼に聞けば今日は学校を早退したという。ここの所、天候に波があったからだろうと彼は言ったが、きっと疲れに誘発されたのだろうと私は思った。 ”飲み物でも買って行きましょうか?” 自分でもおせっかいだなぁと感じつつ、取り敢えずメールを送る。数分して、”ありがとう。”と簡素な返信が返って来た。そこに書かれていた住所をネットで調べ、私はその日初めて早退した。 近所のスーパーでポカリを買い、ついでに冷えぴたも買ってきた。 アーサーさんの住むアパートに着くと鍵は開けておくからと言う言葉どおりに開いていた扉を開くと、その直ぐ奥の部屋でベッドの上で背中を丸めて布団から首だけを出したアーサーさんがうだっていた。 「アーサーさん、大丈夫ですか?」 「日向か……。早く、ねえか?」 「早退しましたから……はい。」 冷え冷えのペットボトルを差し出せば、ゆっくりと上半身を起こした彼は喉の渇きに気づいたのか一気に半分も飲み干してしまった。喉仏が上下し、彼の汗がつぅと伝った。ポケットからハンカチを取り出して、額に浮かんだ汗をぬぐう。 「お腹空いてますか? お昼食べてないです……よね?」 冷えぴたを袋から取り出して、ぺりぺりとシートを捲る。そして、熱を持った額に失礼ながら手を触れて髪を上げて、そこにひんやりとしたそれを張り付けた。触れて気づいたが、アーサーさんの熱は思ったよりも高いらしいことがわかった。 「おかゆ作りますから、台所お借りしますね。」 「ん……。ありがとな。」 恥じのまじりあった小さな声が耳に届いた。
06
|