「えっと……トーリスさんも困ってるし、ね? そろそろちゃんと制服きよう?」
「うわああんちさの馬鹿ー!」
 あ、と言う声が被る。アーサーさんの声だ。フェリクスはへそを曲げたようで、全力疾走して部屋から出て行った。それを見て、トーリスさんが顔からあからさまに血の気を無くしていく。損な役割だなぁと何時も思う。
「ちょ、フェリクスー!? ごめんなさい会長! しっかり説教しておきますので! ちょっと待ってよー!!」
 後を追い掛けていく彼は律儀にしっかりと扉を閉めてから部屋の中にまで聞こえるような足音をたてながら去って行った友人を追って行った。絶対心のどこかで逃げれたとか思ってるよね、居ない人に言いがかりをつけてみる。意味がないことこの上ない。出て行ったその扉をじっと恨めし気にちらと見た。これじゃ、私とアーサーさんだけという何ともヘンテコな空間になってしまうじゃない。出て行きたいけれど、待ってと言われたために動けずにいると、静寂がその場を取り巻いていることに気づく。どちらも口を開かずに、向かい合ったまま。帰りたい。長く、けれどそれほど重いとは言えないような沈黙を破ったのは、アーサーさんだった。
「日向。」
「な……なんでしょう?」
「紅茶って、好きか?」
「……はい?」
 え、なんか物凄く嬉しそうな顔してらっしゃるんですが。


 手に持ったティーカップから漂うのはふんわりとしたカモミール。それを優雅に口元に運ぶ目の前の彼は、本当に絵になった。その綺麗な髪で陰る目元はうっすらと恍惚のそれを感じさせる。綺麗だった。彼はそこに居るだけで絵になる。そんな彼は一言も喋らなかった。私も、喋れなかった。どうしたらいいのだろう。静寂に耐えられなくなった私はいそいそと口元にカップを運んだ。そして、ごくりと飲み込んだ薄い色をした液体に思わず声が漏れた。
「美味しい……。」
 小さく零したはずの言葉に、目の前の彼が嬉しそうに笑みを零した。
 本当に、嬉しそうに。
「そ、そうか。良かった。」
「本当に美味しいです。アーサーさん、凄いですね。」
「ま、まぁ俺だからな。飲みたくなったらいつでも来ていいぞ。」
 そう零したように言った彼は、はっとした様に口を閉じ、その上から手で口を押えた。それが今までの”固い人”という概念を薄めて、私は少しだけ笑った。そもそも先程の優雅なティータイムを準備し始めた所から、私の彼を見る目は少しだけ変わったのだけれど。
 その後、昼休みが終わるまでお茶を飲んで過ごした。穏やかな時間の中、久し振りに心を休められたような気がした。どうして、アーサーさんが私なんかにお茶を勧めたのかは分からなかったが、丁度紅茶を飲みたかった私はラッキーだったと思う事にした。紅茶を貰うだけなら、別段変でもないだろうし、此処は余り人が近寄らない場所にあるので目立つこともないだろう。これでよかったんだ。自分に言い聞かせるようにして、また私は紅茶を口にした。やっぱり美味しかった。


 春のうららかな日、色々あってお友達ができました。

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