「本当すみませんでした! やらされていたんです私の本意じゃなかったんですう!」
「すみませんですんだら警察はいらないんだがな。」
「い、命だけは……! どうかぁ!」

 地面に頭をひっつけて必死に謝る。所謂わが祖国の伝統芸、DOGEZAだ。なんでこんなことを私がしているのか、といえば原因は明確だ。私が殺し屋、彼が標的だった。それだけのことだ。目の前の男は眉間にしわを寄せた強面のまま私をじっと見下ろしていた。まさに蛇に睨まれた蛙状態、じんわりとにじみ出てくる汗、ガマの油として売り出せるね! やったねラナちゃんお金が増えるよ!

 私の生まれは日本という極東に存在する島国だ、その中でも治安の悪いと言われている関西のとある都市の片隅で生まれた孤児が私だった。そんな孤児がまっとうな道を歩ける訳もなく、今はこうして一人前の殺し屋になりました。まさか国を殺してこいなんて言われるとは思ってなかった。むしろ国ってなんですか状態、よく受け入れられたな私。

 相手がただの男だったら勝ち目はあったかもしれないが、生憎あいてはムキムキだった。その拳に撃沈したのは言うまでもないだろう。遠くへと飛ばされてしまった獲物を運よくとれたとしても、勝てる気がしない。ガイジンのごつさは異常、超怖い。

 先程の男の拳が獲物を跳ねのけた衝撃が、ヴヴヴと弱い電流が走るように今も体の中を巡っている。ああ、こわい、こわい。人の命を狙っているという身分なので、殺されても仕方がないとは割り切っていたはずだけれど、やっぱり怖いものだ。必死に額を地面にこすりつけてしまうのは、せめてもの足掻きだ。

「はぁ。」と男は深い溜息を吐いた。先程までの恐ろしい雰囲気をすべて吐き出したようにさえ感じる程、威圧感も殺気も怒りも、何もかもが消え失せてしまっていた。少し顔をあげる、まじまじと初めて見たその男の顔は”呆れ”に染まっていた。

「……怖がらなくてもいい。もう怒ってはいない。」
「あ、ありがとうございます!!」

「だが、」と彼は言う。背筋が凍る。けれど、そんな心配とは裏腹に優しい口調で言葉は続けられた。

「俺専属の部下となる、という条件付きだがな。」

 負けた者が勝った者のいいなりになると言うのが世の理である。
 それと、彼の透き通った瞳に心をがっしりと掴まれてしまった私は、


 逆らうことなどできないのです。

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