「兄さん、この人、誰?」

初めて私に彼が発した言葉はとげとげとした感情が薄らと読み取れるような、そんなセリフだった。
同居し初めて数週間、まだ打ち解けることは難しそうだ。この難攻不落の国をどうやって攻略しよう。一緒の家に住むのだから、やっぱり仲良くなりたいと思うのが沙我というもので、それでもなかなか打ち解けられない。そんな私たちを見てギルベルトはくすくすと笑っていた。お前ら気難しいからいけねーんだよ。

ある日、唐突に甘いものが食べたくなって、一人キッチンでカシャカシャとドーナッツを作っていた。貴重な卵を使っているため失敗は許されない。上手く作れたら二人にも分けてあげたい。そんな私の所にとてとてと近づいてくる小さな影があった。蜂蜜色の髪と澄んだブルーの瞳を持った、まるで一見人形のような少年、ドイツは不思議そうな顔をして呟いた。

「何を作っているのだ?」
「ドーナッツですよ。」
「あ、兄さんが作ってくれたあれか。ふわふわの。」
「ええ。よかったら、ドイツくんも作りますか?」
「……いいのか!?」
「手を洗ってきてくだされば。」

 手元を見ているため、ドイツくんのことは視界に入っていないが、声色からしてきらきらと瞳を輝かせているのが分かる。直ぐに足音は遠ざかっていった。そして、直ぐに戻ってきた。

「じゃあこのボウルをこのヘラで掻き回してください。」
「分かった。」

 ぐるぐる、頑張ってボウルを掻き回している姿はそこらへんにいる子供と変わりはなく、容姿相応の歳に見える。時折零れてしまった生地に”この世の終わりだ”とでも言いたそうな表情を浮かべるのを観察するのは何と言うか、楽しい。表情は少ない子だとばかり思っていたからとても意外だった。思わず私も笑みが零れ、頬の緩みは止まらない。気づかれたのか、恥ずかしさを隠すためにそっぽを向かれてしまった。けれど、耳の朱は白い肌には映え過ぎていた。



「お前ら、何時の間に仲良くなったんだ?」

 三時のおやつを食べながら、プロイセンは問いかけた。今日の菓子は少し不格好だが美味しいドーナツだ。料理はいつもメイドたちが一通りやってくれるのだが、おやつは基本ないのが普通だ。今日も無いと思って帰ってくれば、玄関まで届くようないい匂い。キッチンをこっそり覗けば、仲良く菓子を作っている二人がいた訳だ。
 家を出る前までのあのギスギスとした空気はそこには無く、何処かのくるん兄弟を思い出すようなほんわかな雰囲気が二人の周りにはあった。

「秘密ですよ。ね、ドイツ。」
「うん、兄さんには秘密だ。」

 何となく、事情は分かっているが本人たちから聞き出したい。そう思ってしまうのは急に仲良くなってしまったこの悲しさか。

「どうしたら、仲よくなれるかな?」
「どうすれば、仲良くなれますかね?」

 ふと脳裏に浮かんだのは何時かの二人。
 だから行ったろ、お前ら気難しいからいけないんだと。
 両想いじゃねーかよ。俺様拗ねるぞ!

 目を細めて二人を見る、互いに楽しそうに笑い合っていた。薄らと天使の片鱗を見たような気がした。

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