種族も寿命も違う、茨の道を歩いて行く事だと分かっていた。
 けれど自分の気持ちに嘘を吐くのは裸足で茨の道を踏みしめて行くよりもずっと辛い事だと知ってしまったから。

「起きてたんだな。」
「お帰りなさい。丁度お茶があるの、今淹れるわね。」
「ああ、ありがとうラナ。」

 帰って来た姿のままリビングへとやってきたアーサーは、疲れきった体をソファに降ろした。今日も王女様への謁見だったとかで忙しない一日を過ごしてきたらしい。紅茶を渡せば彼は薄く微笑んだ。その隣に座ってカップを口に寄せて月を仰ぎ見る。
 月を眺めていると何時でも貴方を傍に感じられる気がする。例え傍に居なくとも夜月が空へ上っている限りそれは同じで、きっとこれからもずっとそうなんだと思った。

「月が綺麗だね。」
「……普通の人はあれを嫌ってると思うんだがな。」

 月の出る日は魔力が強まって、あいつらが人間に迷惑かけるからさ。
 新緑の瞳を細くして彼は月を見た。何時もただ黙っている事が多い彼だったのでまさか返してくれるとは思わなかった。
 私が月を綺麗だと思うのは、それは月が貴方の持っている金色にとても似ているから、私の生きるべき道を照らしてくれる姿がとても似ているから。

「そうかもね、でも私は好き。」
「おかしな奴だな。」
「いやーそれ程でもー!」
「……。はあ……。」
「可愛そうな人を見る目をやめてっ」

 彼が私を見る目は引いていた、まあそうだよね。
 こんなおふざけが出来るのも後何年ぐらいなんだろう?
 そんな質問を言ったら殴られる事は分かっている。

「じゃあそんなおかしくて可愛そうな私から一つだけお願いでーす。」
「なんだよ、言ってみろ。聞くだけ聞いてやる。」

 優しい声で囁く声が鼓膜を震わせる、嗚呼こんな些細な事にもときん、と胸が高鳴ると言うのに。こんなにも好きなのに、自分で嫌われに行くような事をする私を赦してね。

 貴方に残る記憶の中の私がおばあちゃんじゃ嫌だから。
 だからと言って自殺する程の勇気なんて私には無いの。
 だから、最後は愛する貴方の手で。

「何時か私を殺してね。」


空想自殺


 どうか、よろしく。

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