「旨いフィッシュ&チップス教えてやるから来い。」

 半分酔いが回ったような声のアーサーは店の名前を告げると通話を切った。勝手だ、凄く勝手だ。紳士なんて嘘っぱちだー、そんなことを思いつつ私は指定された場所まで足を向けた。
 アーサーは留学生である私の通っている学校の席が隣な金髪碧眼の青年だ。それなりに仲はいいと思うが、イギリス人は皆こうなのか少しばかり意地悪で表面上は相手を好いているのか嫌っているのかわかりずらい。だが今回のように時折遊びに呼んでくれるということは、まあそういうことなのだろう。ツンデレですねえと祖国にいる友人にメールをしたらそう言われた。


「……。」
「これが美味しくないなんてお前はオカシイ。」

 微妙な表情をしてたのだろう、覗きこまれたと思えば眉をハの字に寄せてそう彼は言った。
 やって来た店の外観はとても素敵で、内装もアンティーク調で美しいお店。なかに入る時はアーサーがレディーファーストで扉を開けてくれた。うん、そこまでは本当に良かったんだ。
 イギリスに来ても外食は極力せずに自炊で食費を削っていたため、フィッシュ&チップスは今日初めて食べるのだけれど正直言えば味がそっけなさ過ぎるしパサパサとしていて口のなかの水分が無くなる。後から味付けでどうにかしているが微妙過ぎる。
うん、イギリス飯より和食だな。結論に至る私の表情からなにかを感じ取ったのか、「これだから田舎者は。ばかぁ。」などとぶつぶつ呟いているのが耳に入る。

「アーサー、今度家おいでよ。お礼するから。」

 ピキッ、何かに亀裂が入る音がした。貴方たちに食事のことだけは馬鹿にされたくないわ!

 そして今、目の前の彼は放心したように私の料理を見つめていた。最初の一口を食べるまで不服そうに言葉を並べていたというのに食べた途端にこれである。してやったりと笑みを浮かべた。

「なんだこれ……うめえ。魚か本当に?」
「うん。白身魚のフライと肉じゃがだよ。」

 菊に送ってもらった食べ物をふんだんに使った料理の数々を見る目はキラキラと輝いていたが、ある時ふっと悲しげな色を見せる。「なんで同じ島国なのにこんなに違うんだ。」慰めの言葉も出なかった。
 その後、定期的にアーサーがうちにご飯を食べにくることになり、胃袋を掴んでしまったことに気づくのはもう少しあとのことである。



裏設定:夢主は語学留学生、アーサーは国だけど学生やってます。

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