小さな丘の上で僕たちは一緒に遊んでいた。とても楽しい思い出。これからとても大きな罪を背負うなんて知らなかった僕たちはただその幸せを甘受していた。
 その時に見つけた綺麗な可愛らしい花を僕は持ち帰って育てたんだ。二人の幼馴染はそれを見せろ見せてと言ってきたけど、なんだかとても恥ずかしくて最後まで見せることはなかったなぁ。
 愛情をこめて水を遣って、沢山の日差しを浴びさして、大切に大切に真綿でくるむように育てたその花はとても綺麗に咲いたんだよ。ああ、でもあの花はなんて言う名前だったんだろう。大きくなって沢山の知識をつけたはずなのに未だに僕はあの花の名前を知らないでいる。



「調査兵団に入ろうと思ってるの。」

 フレイははっきりとそう言った。その場にいた人たちはおかしなものを見る様な目で彼女を見た。ただ一人、死に急ぎ野郎というあだ名を冠するエレン・イェーガーだけが「そうか! 一緒に頑張ろうぜ。」と彼女の両手を掴んで激励していた。フレイ・ジンジャー、現在成績14位の一言でいえばバランス型の優等生だ。そして、僕たちの班の班員だ。彼女は突然掴まれた手に驚いた後、ゆっくりと柔らかな微笑みを零した。調査兵団なんて、死ににいくようなものだと分かっていてなお、そう口に出したのだからしっかりとした決意があるのだということに気付いた周りに人々はきゅと口をつぐんだ。ただ一人ミカサだけが鋭い目つきになっただけで、その日はゆるやかに夜が更けて行った。

「ねえ、どうして調査兵団なの? 駐屯兵団でもいいんじゃない?」
「消去法だよ、消去法。まず10位には入れないから憲兵団は無理、駐屯兵団には私の居場所が無いから無理。ね、調査兵団しかないでしょ?」

 次の日の訓練の始まる少し前に聞いたベルトルトの問いに、彼女は笑ってそう言った。
(やっぱり分からないよ。それに、居場所がないってどういうことなんだろう。)
 いくら考えても答えが浮かばない。そして、ふと他人のことで頭を悩ませている自分に嘲笑を零した。
(なにを考えてるんだ僕は。彼女の悩みだ、秘密だ、なんて僕には関係のないことだ。)
 そういうものだと自分に言い聞かせ、「頑張って、何かあれば言ってね。」当たり障りのない応援の言葉を掛ければフレイは「ありがとう。」と小さくはにかんだ。
 ずきんと痛む心の叫びを気付かなかったふりをした。