城にある一つの塔の窓枠に腰掛ける男――ギルベルトは苛立っていた。ただただ苛立っていた。いつぞやから乗っていたかさえ分からない黄色の小鳥が彼の頭の上で不安そうに一声鳴き声を上げるが、その存在に彼は気づく様子は無い。彼は小さくため息をついた。 この時、全線からの連絡が途絶えて既に数日がたっていた。苛立ちと不安は募るばかりだ。 一体どうしたと言うのか。まさかの敗北か、だとしたら既にフリードニアの軍が近くにきているだろう。それに、流石に近くまで来ているのならば各都市の伝達係が馬を走らせているだろう。ぽつりぽつりと浮かび上がる可能性の一つ一つにバツ印を加えることしか今はできない。下手に此方が動けばその隙に他国が侵略してくる可能性がある。それだけは何としてでも阻止しなければならない。 「……ラナ。」 呟いた一人の人間の名前は、風に吹かれて西の空に溶ける。 生きているなら、さっさと帰ってこい。 俺はお前を憶えているんだからよ。 彼の願いは、叶う事はなかった。 |