始まりがあるものは、終わりがあるのだ。
 それはこの世界が始まった時から決まった、ただ一つの変わらない定めである。
 だから、この平和の終わりも運命なのだ。

「戦争、ですか。」

 一言、かみしめるように呟いた言葉はまさに終止符だった。

 慌ただしく部下たちが行き交う城の中。休憩の最中、召集された私は王の元へと足を向けていた。もう直ぐ開戦するであろう戦争に関することであることは火を見るよりも明らかだ。むしろそれ以外に何があると言えるのだろうか。何故か人払いされている王の部屋へとノックをして入ると、王座に優雅に腰掛けたフリードリヒさまは「よく来た。」と仰った。

「さっそくだがリット、君に今度の戦いで小隊の指揮を執って貰う。」
「……私、ですか? しかしどうして。」
「今回の戦いの相手を知っているかね?」
「南西に位置するフリードニア、と聞き及んでおります。フリードニアはまだできたばかりの小国、しかし軍事力はとても高いと……。」

 自分で口にしつつ、本当にそれぐらいの情報しかないことを改めて実感した。今この時代、新しく国が出来ては直ぐに衰退していく。そんな情勢だからか、自分の国のことを気にしすぎていた私にフリードニアの細かな情報までは伝わっていなかったのだ。もう少し視野を広げなければ。

「彼らは軍事には長けている、けれど反面女性は非力で足手まといと言う認識が強いらしい。そこで君の出番だ。君はとても剣術も馬術も優秀だし、冷静に物事を見極められる。動揺をさそえると言うのは、とても戦術としての効果がある。」
「おほめに頂き光栄ですが、私はまだまだ未熟ですので……。」
「謙遜しなくてもいい、まあ自信に満ち溢れても困るが。戦場では勇者よりも臆病者が生きるのだから。大丈夫、心配しなくても君なら……プロイセンも認めていた君ならきっとうまくやれる。」

 戸惑いも、迷いも、未練も何もかもが淡雪のように消えていく。「プロイセンも認めてくれている」その言葉を耳にした時、断ると言う道は残されていなかった。なぜなら
 私は、プロイセンの騎士団員であり、同時にギルベルトの友人だからだ。
 親しい人に己の力を認められるというのは、嗚呼、こんなにも、

 恭しく頭を下げて部屋を出て行ったラナの後ろ姿を見つめる。風邪に揺れるマントさえも見えなくなろうとした時、フリードリヒはぽつりと呟いた。
「頼んだよ、リット。」
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